ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用なふたりが、東京で0センチメートルになるまで。~
「……っ、美絵、ちょっと待って!」

 背後から、彼の追ってくる声が聞こえる。

(追ってこないで。もう、期待させないでよ……)
 そう思えば思うほど、悲しさが込み上げてきて、どんどん涙が滲んでくる。

 人けのない裏庭まで逃げたけれど、運動神経のいい彼にはすぐに追いつかれてしまった。

 肩を掴まれ、振り返る。
 彼に見せたくない、ひどい顔をしている自覚があった。

 私の涙を見た彼は、驚いて目を見開く。

「…………」
「…………」

 サラサラと音を立てて風になびいている黄色い葉たちとは対照的に、二人の間には重たい空気が流れる。

「えっと……この前、変なことして、ごめん」
 彼から出たのは、そんな曖昧な謝罪だった。

 必死に謝る姿を見て、心が痛む。

 何かの間違いだったのかな。
 もしかして……勘違いさせてごめんってこと?
 私みたいに、胸が苦しくなるような嬉しい気持ちは、彼にはなかったのかな。
 もし好きだったら、あんなことがあった後は、私と同じように浮かれたりするはずだよね……。

 悪い考えばかりが頭を支配していく。

「ごめん……」
「謝らないでよ……」

 彼のことが好きだから、泣いているのに。
 彼に謝られると、私の抱えている恋心が全部否定されたみたいで、余計に涙が止まらなくなってしまった。

「本当にごめん……どうしたら止まる? 俺、なんでもするから……」

 切羽詰まったような彼の声。
 こぼれる涙を拭おうと、祥くんの人差し指がそっと私の頬に触れた。

 一週間ずっと忘れられなかった、彼の優しくて、あたたかい体温。

 それに触れた瞬間、私の中の悲しさ、苦しさ、そして彼への想いが、限界を超えて決壊した。

 もう、隠しきれない。
 勘違いだと言われてもいい。
 気の迷いだったと言われてもいい。

「……好き」

 涙で濡れた頬に彼の温度を感じながら、私はついに、溢れ出した自分の気持ちを声に出していた。
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