ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用なふたりが、東京で0センチメートルになるまで。~

第40話

「俺も、好き。……すごく、好き」

 真剣な、少し低くて掠れた声。

 その言葉が私を包み込んだ瞬間、今まで感じたことのないような、甘くて温かい喜びで全身が満たされていくのを感じた。

 もし、たとえ両思いだとしても、私のほうが彼を何倍も好きだろうと、なんとなく思っていた。
 でも、最後に付け加えられた『すごく、好き』という言葉。
 その響きと、私を見る眼差しに、もしかしたら彼も、私が思っている以上に私のことを好きでいてくれているのかもしれないと、心が風船のように舞い上がっていく。

「……本当に?」
「……うん」
「本当の、本当に?」

 念を押すように聞くと、彼は顔を赤くしたまま、恥ずかしそうに視線を彷徨わせて、小さく頷いた。

「……うん」

 彼の返事が、私の冷えた指先を溶かしていく。
 ずっと聞きたかった、あの夜の答え合わせを、今ならできる気がした。

「……好きだから、この前……抱きしめたの?」
 少し目をそらしながら尋ねると、祥くんは「うっ」と小さく呻いた。
「それは……まあ、大体合ってる。好きで、可愛くて、つい……みたいな。……ほんと、すみませんでした」
 消え入りそうな声で白状し、項垂れる彼。

 いつもは大人っぽくて余裕があるのに、今の彼は中学生の男の子みたいに不器用で、それがたまらなく愛おしく感じた。

 お互いの気持ちを知って、恥ずかしくて、嬉しくて。
 言葉にするのがもったいなくて、私たちはお互いの足元を見つめたまま、しばらく無言で秋の裏庭に突っ立っていた。

 やがて、彼が「……ふう」と小さく息を吐いて口を開く。
「……今日は、申し訳ないけど、戻らずに帰るか」

 彼は私の顔――おそらく涙でグシャグシャになっているはずの泣き跡――をチラリと見て、そう提案してくれた。

 サークルの作業を抜け出して帰る口実を作ってくれる、彼なりの優しい気遣いだ。

「……うん。ありがとう」
 私が頷くと、彼は「先輩に適当にお詫びして、荷物取ってくるから。ここで待ってて」と言い、颯爽と講義棟の方へ走っていった。


 一人残された裏庭。

 さっきまであんなに冷たく見えていた世界が、嘘みたいに輝いている。
 落ち葉が風に舞う音も、遠くから聞こえる学生たちの笑い声も、すべてが祝福してくれているようにキラキラして聞こえた。
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