ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。
◇
マンションの前に着き、ようやく向かい合う。
幸福な余韻に浸っていたが、ハッと気がついた。
一番大事なことを、まだちゃんと伝えられていない。
繋いだ手をそっと離し、居住まいを正して、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「あの……」
声が裏返らないよう、丹田に力を込める。
「俺の、彼女になってほしいです」
少しの間の後。
美絵は、これまでで一番可愛い笑顔を見せて言った。
「……はい。彼女になりたいです」
その瞬間、理性のタガが吹き飛んだ。
一週間前と同じこの街灯の下で、また彼女の細い身体を両腕で引き寄せ、抱きしめてしまった。
あの時と違うのは、彼女は驚いて固まるのではなく、嬉しそうに僕の背中へ腕を回し、ぎゅっと抱きしめ返してくれたこと。
そして――柔らかい頬を僕の胸元にすり寄せてくれたこと。
「…………っ」
心臓が爆発してしまいそうだ。
甘い髪の香りに包まれながら、僕は世界中の誰よりも幸せだと確信していた。
しばらくその温もりを分かち合ったあと、名残惜しくも身体を離す。
「……ねえ、祥くん」
美絵は僕を見上げながら、少しだけ頬を染めて言った。
「……彼氏になったし、部屋でお茶、誘ってもいいの?」
「……えっ!?」
その破壊力抜群の提案に、僕の肩が跳ねた。
大好きな『彼女』の部屋。二人きり。
脳内で警報が鳴り響く。
「ま、まあ……彼氏なら、一般的にはいいのかもしれないけど……」
視線を泳がせながら、必死に自分を制する。
「今日は、その……遠慮しとこうかな、と」
つい一週間前、嫉妬に狂うあまり我を忘れてしまった自分を、まったく信用できない。
ましてや今は、想いが通じ合った直後だ。
彼女への愛おしい気持ちが溢れすぎていて、冷静さを保てる自信が皆無だった。
「……そっか。わかった」
少し寂しげに微笑む美絵の頭に、『ごめん』という気持ちを込めて、手のひらを軽く乗せる。
「じゃあ、また明日。大学で」
「うん。……大好き、祥ちゃん」
最後に放たれたその甘すぎる響きに目眩がして、やっぱり部屋にお邪魔しなくてよかった……と胸を撫で下ろした。
後ろ髪を強く引かれながら、なんとか踵を返して帰路についた。
◇
駅へと戻る夜道。
火照った顔を風で冷ますように、アスファルトを踏みしめながらゆっくりと歩く。
ポケットに突っ込んだ左手には、まだ彼女の感触が鮮明に残っていた。
(……本当に、夢じゃないんだよな……)
もしタイムマシンがあって、グラウンドで泥だらけになりながら彼女を遠くから見ていた頃の自分に、このことを伝えられたとしても――。
あいつは絶対に、信じてくれないだろうな。
一人で歩きながら、思わず声に出して笑ってしまった。
マンションの前に着き、ようやく向かい合う。
幸福な余韻に浸っていたが、ハッと気がついた。
一番大事なことを、まだちゃんと伝えられていない。
繋いだ手をそっと離し、居住まいを正して、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「あの……」
声が裏返らないよう、丹田に力を込める。
「俺の、彼女になってほしいです」
少しの間の後。
美絵は、これまでで一番可愛い笑顔を見せて言った。
「……はい。彼女になりたいです」
その瞬間、理性のタガが吹き飛んだ。
一週間前と同じこの街灯の下で、また彼女の細い身体を両腕で引き寄せ、抱きしめてしまった。
あの時と違うのは、彼女は驚いて固まるのではなく、嬉しそうに僕の背中へ腕を回し、ぎゅっと抱きしめ返してくれたこと。
そして――柔らかい頬を僕の胸元にすり寄せてくれたこと。
「…………っ」
心臓が爆発してしまいそうだ。
甘い髪の香りに包まれながら、僕は世界中の誰よりも幸せだと確信していた。
しばらくその温もりを分かち合ったあと、名残惜しくも身体を離す。
「……ねえ、祥くん」
美絵は僕を見上げながら、少しだけ頬を染めて言った。
「……彼氏になったし、部屋でお茶、誘ってもいいの?」
「……えっ!?」
その破壊力抜群の提案に、僕の肩が跳ねた。
大好きな『彼女』の部屋。二人きり。
脳内で警報が鳴り響く。
「ま、まあ……彼氏なら、一般的にはいいのかもしれないけど……」
視線を泳がせながら、必死に自分を制する。
「今日は、その……遠慮しとこうかな、と」
つい一週間前、嫉妬に狂うあまり我を忘れてしまった自分を、まったく信用できない。
ましてや今は、想いが通じ合った直後だ。
彼女への愛おしい気持ちが溢れすぎていて、冷静さを保てる自信が皆無だった。
「……そっか。わかった」
少し寂しげに微笑む美絵の頭に、『ごめん』という気持ちを込めて、手のひらを軽く乗せる。
「じゃあ、また明日。大学で」
「うん。……大好き、祥ちゃん」
最後に放たれたその甘すぎる響きに目眩がして、やっぱり部屋にお邪魔しなくてよかった……と胸を撫で下ろした。
後ろ髪を強く引かれながら、なんとか踵を返して帰路についた。
◇
駅へと戻る夜道。
火照った顔を風で冷ますように、アスファルトを踏みしめながらゆっくりと歩く。
ポケットに突っ込んだ左手には、まだ彼女の感触が鮮明に残っていた。
(……本当に、夢じゃないんだよな……)
もしタイムマシンがあって、グラウンドで泥だらけになりながら彼女を遠くから見ていた頃の自分に、このことを伝えられたとしても――。
あいつは絶対に、信じてくれないだろうな。
一人で歩きながら、思わず声に出して笑ってしまった。