ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用なふたりが、東京で0センチメートルになるまで。~
 夢のような出来事から一夜明けた。

 身も心もずっとフワフワしていて、夢と現実の境目が曖昧でよく寝られず、正直寝不足だ。
 だが、午前中からクラスの出し物の準備があり、昨日に引き続きキャンパスに来ていた。

 僕たちのクラスは体育学部ということもあり、飲食の屋台などではなく、小さな子供から大人まで気軽に楽しめるようにと、教室の中にボーリングができる手作りのブースを作ることになっていた。

 空のペットボトルに色水を入れてピンに見立て、段ボールでレーンを作る。
 サークルの屋台ほど大掛かりではないため、今まであまり本格的に動いてはいなかったが、事前準備はあと二日もあれば終えられそうな見通しだった。

 ◇

 午前中の作業を終え、僕は久しぶりに顔を合わせたクラスのメンバーと別れ、正人と二人でカフェテリアへ昼ごはんを食べに向かった。
 カフェテリアは、同じく文化祭の準備で大学に来ている生徒たちで賑わっており、夏休みの間の静けさが嘘のように活気が戻ってきていた。

 食券を買い、運良く空いた窓際のテーブル席に腰を下ろす。
 今日のランチは親子丼で、俺も正人もそれを選んだ。

「いやー、ボーリングのピン作るのって、意外と時間かかんだな」
「そうだな。でもまあ、形にはなったし」

 世間話をしながら食べ進めていると、ふと、正人に誘われ二人で行った定食屋での会話を思い出す。
 正人から好きな人の有無を問われ、『初めて明かすのは、本人がいいから。その後に、お前には教えるよ』と答えたこと。

(そのうち知ることにはなるだろうが、約束通り、自分から伝えておくか……)

 僕は味噌汁を一口飲み、少しだけ姿勢を正した。

「……そういえば、正人」
「ん?」
「……一応、伝えとくけど」

 周囲の喧騒に紛れさせるように、けれどはっきりと、僕は口を開いた。

「俺、美絵が好きだから」

 ――ポロリ。
 正人の右手に握られていたスプーンから、黄金色の卵と鶏肉が、器の中へ無惨に落ちた。

 目を限界まで丸く見開き、口は半開きにしたまま、僕の顔を凝視して完全にフリーズしている。

「……おまっ、え?!」

 数秒後、ようやく再起動した正人は、信じられないものを見るような目で身を乗り出してきた。

「それ言うってことは、言ったのか?!」
 あまりの混乱に、主語も目的語も欠落した聞き返しをしてくる。
 しかし不思議なことに、僕には意味が通じていた。
「おお」
 短く肯定すると、正人はさらに前のめりになった。
「それで!?」
「……付き合うことになった」

 言葉にした瞬間、自分の耳がカッと熱くなるのがわかった。
 いくらなんでも照れ臭すぎる。
 やっぱり、男同士で真っ昼間から恋愛の報告をするなんて、背中が痒くなってたまらない。

「……はい、報告おしまい。早く食おーぜ」
 僕は無理やり話を切り上げ、親子丼をかき込もうとしたが、正人がそれを許すはずがなかった。
「マジかよーー!!」
 バンッ!とテーブルを叩き、正人が周囲の目も憚らずに大絶叫した。
「うおー! すげえ! マジか! やっば!」

 隣のテーブルでパスタを食べていた女子大生たちが、ビクッとしてこちらをチラチラと見ている。

「声でかいって……」
 周囲を気にする僕をよそに、正人は一人でブツブツと呟きながら、興奮冷めやらぬ様子で親子丼を掻き込んでいた。
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