ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用なふたりが、東京で0センチメートルになるまで。~
「明日から楽しむぞー! かんぱーい!」
 幹事の音頭とともに、無数のジョッキやグラスが派手な音を立ててぶつかり合う。

 炭酸の弾ける爽快な音と同時に、祥ちゃんの席の周りには、さっそく悪絡みを楽しみにしている先輩や同期の男子たちが群がってきていた。

「おいっ祥太郎! こんな可愛い彼女作りやがって、許されると思ってんのか!」
「中学の同級生で再会して付き合うだと? 漫画か! 調子乗りすぎだろお前!」
「いいからとりあえず飲め! 今日はお前のターンな!」
 次々と押し付けられそうになるグラスの山。
 祥ちゃん「いやいやいや」と半分本気で苦笑いしながら、目の前に突き出されるジョッキを両手で押し返した。
「明日朝一からクラスの出し物のシフト入ってるんすよ!」
「そんなん知らん!」

 ため息をつきながらも、彼の横顔はどこか楽しそうだ。
 いつも私には、壊れ物を扱うように――たまに少し過保護すぎるくらい――優しくて、穏やかな彼。
 でも、正人くんや先輩たちにウザ絡みされて、ちょっとダルそうに適当にあしらう時はなんかは、年相応の普通の男の子に見える。
 私に向けられる顔とも、少年野球で指導している時の顔とも違う。
 その無防備で少し雑な一面に、キュンとしてしまう。

(……私も今度、二人きりの時にちょっとウザ絡みしてみようかな)

 彼がどんな風に困って、どんな顔で私をあしらうのか、見てみたい。
 そんないたずら心が、炭酸の泡のようにぷくぷくと湧き上がってきた。


 賑やかな笑い声の波の中で、私は誰にも気づかれないように、もう一度だけ真希さんのほうをチラッと盗み見た。

 ジョッキを片手に同期と談笑している彼女の笑顔は、心なしか、いつもの太陽のような明るさではなく少しだけ曇って見えた。
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