ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。

第45話

 パチッ、と薪が爆ぜる音が、秋の夜空に吸い込まれていく。

 広場の中央で赤々と燃え盛るキャンプファイヤーの火柱は、二日間にわたる文化祭の熱気をそのまま形にしたように、勢いよく天を焦がしていた。

 少し離れた場所では、軽音サークルがアコースティックギターとカホンでしっとりとしたバラードを奏でており、それが心地よいBGMとなっている。

「いやー。文化祭、最高だったなー」

「屋台の売上も目標達成したし、打ち上げが楽しみだわ」

「ってか、お前が競泳水着一丁で屋台の当番来た時、マジでビビったわ! 通報されなくてよかったな」

 僕は、正人をはじめとするサークルの男子たちと炎の近くで駄弁っていたが、気づくとすぐ美絵に目を奪われていた。
 数メートル先で、いずみや同期の女子たちと楽しそうに笑い合っている。

 今日の彼女は、黒のタートルネックに、秋らしいオレンジブラウンのワイドパンツを合わせている。
 赤い揺らめきが白い肌を照らし、大人びた服装と相まって、息を呑むほど綺麗だった。

(……楽しかったな)

 ぼーっとしながら、二日間の記憶を反芻する。

 クラスとサークルの当番を昨日のうちに終えていた僕と美絵は、今日は完全にフリーだった。

 恋人として、二人きりで回る文化祭。

 時折、美絵の方を見ながら「あの子、超美人じゃね」などと話す男の声が聞こえた。
 そのたび、声の主をチラリと見て――決して睨んだわけではないが――牽制した。

 いずみのクラスが出しているカフェで甘いクレープを食べたり。
 オカルトサークルが本気で作ったお化け屋敷に入って、美絵が驚いた拍子に僕の腕にギュッと掴まって、慌てて謝ってきたり。
 ベタで最高な文化祭デートを思いきり謳歌した。
 何から何まで、すべてが新鮮で、夢のような時間だった。

 その中でも一番心に残っているのは、一日目の彼女の姿だ。
 まさか、あのえんじ色のユニフォームに身を包んだ美絵に、もう一度会えるなんて。
 中学時代、グラウンドの隅で太陽のような笑顔を弾けさせていた姿と重なって、胸が熱くなった。

 高校でも文化祭はあったけれど、ほとんど記憶に残っていない。
 中学三年の夏に肩を壊し、すべてを懸けていた野球を失った僕は、高校に入ってからしばらくは、どこか無気力だった。
 他に打ち込めるものもできず、当然、好きな子もいなかった。

 そんな僕は、父のツテで地元の少年野球チームのコーチを手伝うようになってから、少しずつ前を向けるようになった。
 子供たちに野球を教えるうちに、スポーツで怪我に悩む人をサポートする仕事をしたり、スポーツの楽しさを伝える存在になりたいという、前向きな目標が見えた。
 だから、この大学の学部を選んだ。

 そして、今。
 美絵と東京で再会し、想いが通じ合うという信じられない奇跡まで起きている。
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