ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。
◇
授業で出た課題図書の活字を目で追っていた僕だったが、内容は全く頭に入っていなかった。
怪我で自ら投げることを諦めた高校時代に、父のツテで、地元の少年野球チームのコーチを手伝うようになった。
最初は、行き場のない野球への気持ちを向ける場所のようなものだったけれど、子供たちと向き合ううちに、だんだんと「教えること」自体が面白くなっていった。
東京に出てきてからも、当時の繋がりで、コーチをさせてくれる今のチームを見つけることができた。
まだ手伝い始めたばかりなのに、監督は僕の経験を信頼してくれて、たまに一部の練習メニューを任せてくれたりする。
今週末の練習は、どう組み立てるか。
そんなことを、ぼんやりと考えていた時だった。
「……瀬川くんっ」
聞き覚えのある、鈴を転がしたような声が耳に届いた。
肩が跳ねそうになるのを抑え、努めてゆっくりと顔を上げた。
窓から差し込む午後の日差しを背負い、微かに揺れる栗色の髪の輪郭が、キラキラと光っている。
少し息を切らして立つ彼女が、そこにいた。
「……森さん。学校で会うの初めてだな」
平静を装って返したが、鼓動は早鐘を打っている。
(……今の、声上ずってなかったか? 落ち着け。ただの同級生だ。偶然会っただけだ)
そう言い聞かせるが、「隣……大丈夫?」と首を傾げられた瞬間、心拍はさらに加速するのを感じた。
「あ、うん。どうぞ」
「ありがとう」
彼女が椅子を引いて座る。
石鹸の香りが、ふわりと、風に運ばれてくる。
色々なメニューの匂いが充満しているカフェテリアで、彼女の周りだけ空気が澄んでいるように感じた。
授業で出た課題図書の活字を目で追っていた僕だったが、内容は全く頭に入っていなかった。
怪我で自ら投げることを諦めた高校時代に、父のツテで、地元の少年野球チームのコーチを手伝うようになった。
最初は、行き場のない野球への気持ちを向ける場所のようなものだったけれど、子供たちと向き合ううちに、だんだんと「教えること」自体が面白くなっていった。
東京に出てきてからも、当時の繋がりで、コーチをさせてくれる今のチームを見つけることができた。
まだ手伝い始めたばかりなのに、監督は僕の経験を信頼してくれて、たまに一部の練習メニューを任せてくれたりする。
今週末の練習は、どう組み立てるか。
そんなことを、ぼんやりと考えていた時だった。
「……瀬川くんっ」
聞き覚えのある、鈴を転がしたような声が耳に届いた。
肩が跳ねそうになるのを抑え、努めてゆっくりと顔を上げた。
窓から差し込む午後の日差しを背負い、微かに揺れる栗色の髪の輪郭が、キラキラと光っている。
少し息を切らして立つ彼女が、そこにいた。
「……森さん。学校で会うの初めてだな」
平静を装って返したが、鼓動は早鐘を打っている。
(……今の、声上ずってなかったか? 落ち着け。ただの同級生だ。偶然会っただけだ)
そう言い聞かせるが、「隣……大丈夫?」と首を傾げられた瞬間、心拍はさらに加速するのを感じた。
「あ、うん。どうぞ」
「ありがとう」
彼女が椅子を引いて座る。
石鹸の香りが、ふわりと、風に運ばれてくる。
色々なメニューの匂いが充満しているカフェテリアで、彼女の周りだけ空気が澄んでいるように感じた。