アースシールド♾️
父と母の最期
「糸ちゃん、よく来たね」
「紫村さん…ご無沙汰してしまって、申し訳ありませんでした。父と母のこと、本当にありがとうございました」
小さかった私のことを思い、お祖父様に掛け合ってお葬式やお墓の手配などを仕切ってくれたのが紫村さんだった。
「ココ、糸ちゃんにお茶をお出しして」
「うん。糸ちゃんすぐ淹れてくるからくつろいでいてね」
ココちゃんは、いつもよりも少し砕けた感じで私を迎えてくれた。
試験のときは妙に張り詰めていたし、その和やかさが嬉しかった。
「糸ちゃん、今日は恭さんと雅さんの話をしようか」
「父と母の…最期を…」
こくんと首を振り、紫村さんの目を見た。
「きっと、覚悟ができたから来てくれたんだよね」
紫村さんは、あたたかくて、何もかもを優しさで包み込んでくれるような瞳をしていた。
父と母の戦闘ログはすべて頭に叩き込んであるが、最期の瞬間、ふたりが何をしていたのか、聞くことができないでいた。
「父と母が地球を守った話を……どうか教えてください」
「ありがとう、あの日、補佐官として近くにいた私が生き延びることができたのはふたりのおかげだし、奇跡なんだーー」
紫村さんの話を息継ぎさえも聞き漏らさないように真剣に聞いた。
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2X75年5月3日
ーードゥオオオオオオオオ。
空が赤黒く大きな音を鳴らしながらひび割れていた。
夜でも朝でもない色。
地球上に、宇宙人が降りたったのだ。
ーーヒュイーーーーン。
「……来たわね」
雅さんは、静かに言った。
「予定より早いな」
恭さんは、宇宙人をにらんだまま笑った。
「待ってください! ここは一度引いて、仲間の到着を待ちましょう!」
私は必死にふたりを止めようとした。
宇宙人が桁違いの強さであることは、雅さんのすくんだ足と恭さんの震えた手で理解していた。
「紫村くん、君はこの宇宙人の特徴を離れた場所に移動して組織に伝えて! 私が時間を稼ぐから!」
「雅はこう言ったら聞かないからさ、紫村。頼むよ……俺の最後の願いだ」
「さ、最後なんて…! ふたりだけで勝てるような相手じゃ…」
「紫村くん、上官命令よ! 早く行きなさい!」
恭さんと雅さんは、最後までアースシールド♾️の隊長と副隊長の任を全うした。
地球を守るために、何度も並んで戦ってきたふたりの姿を反芻する。
雅さんが合図を送り、恭さんが前に出る。
ふたりの動きは、言葉がいらないほどぴったりだった。
光が走り、風がうなる。
宇宙人の影が、不気味に伸びる。
激しくなる戦闘。
うんともすんともしない緑色の宇宙人。
「まだ、いける」
恭さんは言った。
「ええ。でもーー」
雅さんは、一瞬だけ遠くを見ていた。
守りたいものを見ているようだった。
大きな音がして、地面がゆれる。
「下がって! 紫村くん! 何してるの! 早く行きなさい! 恭くんも、下がって!」
雅さんが叫び、恭さんは雅さんの隣に立った。
「大丈夫。一緒だ」
グッと恭さんが雅さんの肩を抱いた。
「グスっ…糸が…糸がひとりになっちゃう。ここは私ひとりで…うぐっ…」
大粒の涙を流しながらも、目の前の宇宙人から目を離さない雅さん。
「雅。糸は雅に似て、人を導く力がある。大丈夫。これからたくさん友達も仲間もできるよ。ひとりになんてならないさ」
「…ぐすっ…そうね…紫村くん。糸に…糸に伝えてほしいの…うぐっ…」
「は、はい!」
「時間がない、雅。早く」
宇宙人の攻撃を交わしながら、恭さんが私と雅さんを守るバリアを張った。
「信頼できる仲間を作りなさい。いっぱい食べて、いっぱい寝て、大きくなりなさい。遊ぶのはいいけれど、勉強もするのよ。それから、それから…もっとたくさん言いたいことがあるのに…母さん、こんな時のためにまとめておくんだったわ。糸…大好きよ……。ごめん、恭くんも伝えたいことがあったよね」
「大丈夫。父さんはいつだって母さんと一緒の意見さ」
ーーバリン!
バリアが割れ、ふたりが再び敵に立ち向かう。
雅さんは、そっとつぶやいた。
「ーーこの星を、お願い。糸ーー」
私はふたりに背を向け、全力で走って、走って、走った。
宇宙人の死角に入り、必死で隊員に連絡を取った。
一分、一秒でも早く来てくれと。
ーーピカーン。
強い光がその場の全てを包み込んだ。
光が消えた後、そこには静かな空だけが残っていた。