アースシールド♾️

合格


 ココちゃん家の帰り道。
 紫村さんの話を聞いても不思議と涙は出なかった。
 母さん、安心してくれ。
 私は毎日3000キロカロリーは食べている。
 同級生の女子に比べれば、カロリーを摂り過ぎだが、トレーニングもしているのでこのくらい食べないとどんどん痩せていってしまうのだ。
 それに、毎日7時間は寝ている。
 記憶には睡眠が重要だからだ。
 仲間は、もしかするとこれからできるかもしれない。
 今ももちろん信頼できる円と月という幼馴染がいるからいるぞ。

ーープルル、プルルルル。

 電話が鳴った。
 番号を見て、瞬時に、三次試験の結果だと気づく。「もしもし」と電話の向こう側の人に応答した。

『天城糸さんでしょうか。試験を担当しています、栗林と申します。今、お時間よろしいでしょうか』

「はい、大丈夫です」

 紫村さんの話の余韻が冷めぬまま、電話の声に耳を傾けた。

『午前中は、三次試験、ありがとうございました。試験結果ですが、天城さんを我が組織の隊員として迎えたく、お電話差し上げました』

「……合格ということでしょうか?」

『おっしゃる通りです。天城さんの同意を受けて、正式に内定とさせていただきます。いかがでしょうか』

 こんなとき、普通なら父と母に一番に報告したくなるのだろうか。
 お祖父様には、どうせ組織から通達がいくのだから。

「…ありがとうございます。はい、入隊します」

 栗林さんの質問に返答する。

『ご快諾をありがとうございました。それでは今後の日程については後日、改めてお知らせしますね』

「ありがとうございます。よろしくお願します」

 電話口でなんとなくお辞儀をした。

『…これは試験担当としてではなく、私個人の話になりますが、天城さんのお父様とお母様にはとてもよくしていただきました。おふたりがうちの娘は天才なんだと自慢する姿を覚えています』

「父と母がそんなことを」

『ええ、私は当時、おふたりの武器管理を任されていました。剣を見れば「剣のようにまっすぐな子なの」と雅さんが話され、銃を見れば「一度ハートを撃ち抜かれたら命の危険を感じる」と恭さんが話されました』

「そうですか」

『とても愛されているのだと、おふたりとの会話から感じていました』

「……」

『おふたりがこの試験結果を聞いたら、心から喜ばれるでしょうね。本当に素晴らしい試験結果でした。過去にこんな高得点の受験者は見たことないと、試験官同士で話しておりましたよ。最後にどうしてもお伝えしたく、お時間いただいてしまって…すみません』

「いえ…話を聞かせていただきありがとうございました」

『…それでは、また、内定式でお会いしましょう』

ーーガチャ。

 電話を切った瞬間、一粒の涙が私の頬を伝った。

°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。

「糸…」

 名前を呼ぶ声の方向を見ると、永久さんが家の前に立っていた。

「永久さん? どうして家に…」

「トシが教えてくれて。というか、お前ん家、城なのか? デカすぎないか? 移動時間がかかってしょうがないだろ」

 トシ…。
 今度、個人情報保護法について教えてやらねばならない。

「そうですか? 敷地内は電動自転車で移動するので、そんなに時間はかかりません」

「家の敷地内を自転車で移動するやついないと思うぞ…」

「確かに幼馴染の円の家は、うちの玄関くらいのスペースに3人で暮らしてましたね。アットホームな感じがいいんです。って、すみません。何かご用があったんですよね…よかったら上がっていってください」

「いや、ちょっと歩かないか?」 

°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。

 近くの公園のベンチに座る。
 永久さんは「飲み物を買ってくるから待っていろ」と少し離れた自動販売機の前にいた。
 永久さんは合格したのだろうか。
 三次試験の結果が出て、それぞれには伝えられているだろうが、来週の内定式までは誰が受かったかわからない。

「待たせたな」

「いえ」

「試験の結果を1番に伝えたかったんだ。糸に」

「私が1番ですか?」

「家族はいないしな」

 そうか。

「…私もまだ結果を誰にも言ってません」

お祖父様には組織から通知が行くから、知っていると思うが。

「唯一のペアで、糸だから一番に言いたかったんだ」

 私だから?
 なるほど、ペアには一番に言うものなのか。
 そうだよな、ツーマンセルの試験を突破したのは永久さんと組めたからだ。

「ありがとうございます。私も永久さんに一番に聞いてほしいです」

「…ほんとか?」

 顔を隠して下を向く永久さん。
 なんだか赤いような…?
 緊張してるのかなと顔を覗く。

「今は見ないでくれ」

「あ…すみません」

 何か失礼なことをしてしまったのだろうか。

「いや、糸が謝ることじゃない。これは俺の問題で…」

「…はい」

 1分ほど沈黙が流れて、永久さんが口を開く。

「……糸。俺、受かったよ」

「そうかなと思っていました。おめでとうございます」

よかった。
 受かっているとは思っていたが、沈黙が長くて落ちた理由を説明されるのかと思った。

「受かったよ」という言葉を反芻していると、ほほを涙が伝う。
 どんどん涙が溢れてくる。
 どうしてだろう、嬉しいのに。
 さっきから涙腺がおかしい。
 それに、なんで永久さんの前では泣いてしまうのだろう。

「な、泣くなよ。なんでお前は…」

 涙は止まらないけれど、また、オドオドしている永久さんを見ることができて、私はラッキーかもしれないな。
 永久さんは横に座り、肩を抱いてくれた。
 そして、私を優しくさすってくれた。
 ひとしきり泣いた。
 どれくらい泣いていただろうか。
 きっと永久さんのお父さん、お母さん、妹さんも天国で喜んでいるだろう。
 永久さんの努力が報われた日なのだ。
 そう思うとなかなか涙が止まらなかった。
 永久さんは何も言わずに寄り添ってくれた。
 少し落ち着いてきた頃に、永久さんが私の顔をうかがう。

「…糸はどうだった?」

 あ、自分のことを報告していなかった。
 永久さんといるといつもこんな状態だな。

「…ぐすっ…。もちろん、合格しました」

 満面の笑みで永久さんの方を向く。
 永久さんの瞳が揺らぐ。

ーーガバ!

 突然永久さんに抱きしめられて、何事かと固まってしまう。
 何事だ!?

「と、永久さん?」

 確認しようと離れようとすると、さらに強く抱擁された。

「悪い、もう少しこのままで。本当に良かった、糸。これからもずっと一緒だな」

 安心してくれたのか。
 永久さんが喜んでくれてよかったと永久さんの背中をさする。
 すると、今度はバッ!といきなり離れた永久さん。

「お前、ほかのやつにこういうことするなよ」

 なんのことだろうか。

「しません…そもそも男性とハグをしたのは初めてです」

「あ!? お前なー。それ天然でやってんのか? てか、つ、月がいるだろ」

「月になんかハグさせたことありませんよ。腕を掴まれた瞬間に投げますし」

「はあ…先が思いやられるわ」

「どういうことでしょうか」

「もういい。家まで送る」

 永久さんはベンチから立ち上がって、我が家の方向へ歩き始めた。
 私もその背中を追う。
 何か怒らせてしまったのか?

°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。

「糸!」

 後ろから声をかけられて振り向く。
 そこには犬の散歩中の月がいた。

「月…」

「あれ? 永久も一緒だったのか」

「ちょっと話していて。足はもう大丈夫なのか?」

 月は受かったのだろう、明るい顔でわかりやすいな。

「ああ、もうすっかりだ!」

 永久さんが私の隣に立つ。

「月は犬の散歩か?」

 月は「ポンタだ!」と永久さんに名前を教えていた。

「月、おめでとう。受かったんだな」

「え!? 糸、お前知ってたのか!?」

「顔を見ればわかる」

「なんだよー糸はなんでもお見通しだな! 糸も受かってんだろ? 俺が受かるなら糸も受かるに決まってる」

「まあな。もちろん、永久さんも合格だ」

「永久もか! そりゃそうだよな!」

 はははと月と笑い合っていると、グッと永久さんに腕を掴まれる。

「糸、そろそろ」

「あ、ごめんなさい。そうですね、月、また内定式で」

「おい! ちょっと待てよ! 永久と糸は何を話してたんだ?」

「それは…」

「……話じゃない。デート」

 ん?
 今、永久さんなんて言った?

「デート!?」

 驚いている月を置き去りにして、私の手を引っ張り走り出す永久さん。

「おい! デートって! どういうことだよ!」

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