アースシールド♾️
初任務
次の日の朝。
寮の前。
青々とした木々は、気持ちよさそうに風を受けていた。
昨日言い渡された任務に出るため、先生たちを待つ。
『隕石落下の急増により、上官たちは全国各地の任務に出払っている。神くんと鶴くんの隊が鈴森村の任務にあたるように』
お祖父様の言葉を反芻する。
『占拠されている村の状況確認を任務とする。宇宙人を倒すことは任務外だ』
神先生と鶴先生がいれば、村を占拠する宇宙人を撃つことはそこまで難しくないだろう。
ただ、まだ学校に通う私たちが一緒に行動するとなると、現場観察というほかなかったのだろうな。
「月くん、忘れ物ない?」
「ありがとな、大丈夫だ」
ココちゃんがチャックが少し開いた月のリュックをこっそり閉めている。
月は人が変わったようにおとなしくなって、私の方を見向きもしない。
ココちゃんは気を遣ってくれて、私と月の間に立った。
「糸、スーツの襟が…」
永久さんが私の折れた襟を直してくれようとして「ああ! 私がやるから」とココちゃんの手がスッと伸びてくる。
その手を見ながら、月がいつもやってくれていたなと思い出す。
「…ありがとう」
月はこちらを見向きもしない。
次に話しかけるとき、何をまず話すべきなんだろうか。
龍のこと?
告白の返事?
地球を守るという約束のこと?
話さなければならないことばかりだ。
今まで自分の決断に後悔したことはなかったが、今回ばかりは"後悔"という言葉が頭をよぎったーー。
°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。
「さあさあ! みんな集まってるね〜! それじゃ、行きましょうか」
神先生は、遠足当日の小学生のように、るんるん気分だ。
任務なんだが。
「先頭が神先生、その後ろに永久と糸。その後ろにココと月、一番後ろに私。この陣営を崩さず、鈴森村に向かいます」
(戦術編:任に立つとき、まず陣を組むべし)
鶴先生の落ち着いた声の通りに隊を組むと、教科書の一文が頭をよぎった。
村までは走ってまる1日はかかるという。
乗り物は、相手に気づかれる恐れがあるので使用不可とのことだった。
「任務中は何があっても、ふたり以上で行動しないとだめだよ〜。何があってもだ。わかったね?」
「「「「ラジャ」」」」
初めて真面目な顔をした神先生に4人で揃って応答した。
°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。
夕焼けが見える。
村の近くまできたが、今日は森で夜を越すことになった。
村の視察は、明日の朝から。
洞窟の中で休む準備を始める。
先生たちは「30分ほどで帰ってくるから」と、周りの様子を確認しに行った。
「すぐそこに湖があったから水を汲んでくるね」
「俺、一緒に行くよ」
ココちゃんが持っている人数分の水筒に、月が手を伸ばす。
「大丈夫。近くだし、ささっとひとりで行ってくるから」
「神先生が何があってもふたりで行動しろって…」
「糸ちゃんと話さなきゃでしょ」
ココちゃんは、月に耳打ちして走って湖のほうに行ってしまった。
°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。
洞窟の中で、寝床を作ったり、火を起こしたり、それぞれ離れた場所で作業する。
月も永久さんも無言のままだ。
「糸、月、聞こえるか」
突然、永久さんが小声で私たちを手繰り寄せる。
「……敵か」
月と話すことばかり考えていて、気づくのが遅れた。
気配に集中し、人数を把握する。
「…1.2.3……少なくとも5人はいる」
5人という私の声を聞いて、月も永久さんもギュッと拳を握った。
「先生たちもココも、ここからは少し離れたところにいるだろう。俺たちだけでやるしかない」
°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。
「永久! 右だ!」
岩陰から飛び出した敵に気づき、月が叫ぶ。
「わかってる」
一拍遅れて、永久さんが白カラスを呼び出す。
白いカラスたちは、勢いよく敵を裂いた。
「永久さん、村が近すぎて被害が及ぶ可能性があります。ここでは龍は呼び出せません。カラスだけでやれますか」
敵は予想通り5人。
言葉で意思疎通をしているな。
ほぼ人間と言ってもいい宇宙人だ。
(接触記録:人型に近い宇宙人は極めて稀少。武力においては突出しないが、思考力高)
5人の中のひとりに違和感を持つ。
ひとりだけ、宇宙人ではないーー人間か?
ーーカキーン。カキーン、カキーン。
「くっ……」
剣で宇宙人が発する攻撃に対応する。
遠距離型か。
「ふたりとも、無理をするな! 狼!」
戦場の音の中に月の声が届く。
離れたところで狼が宇宙人に噛みつこうと距離を縮めている。
「あの中心にいる男がリーダーか」
永久さんは唇をゆがめた。
私が人間ではないかと予測しているヤツのことか。
ヤツの胸元をよく見ると……。
そこには「子」の文字ーー。
……十二凶のひとりがいるのか。
なぜ宇宙人と共闘している。
永久さんのカラスがヤツ目掛けて飛んでいくが、スッと交わしてまるで当たらない。
透明人間なのかというほどに。
「糸!」
遠くから月の声が聞こえたそのときだった。
地がうなり、遠くで崩れかけていた岩盤が敵の攻撃で一気に崩落する。
「な……っ」
……落ちてくる。
巨大な岩の塊が、粉塵を巻き上げながら迫る。
「糸、下がれ!」
永久さんが叫ぶ。
崩落が速く、反応が遅れた。
まずい。
「うっ――」
避けられず、足元を見ると落ちた瓦礫が目に入る。
足の状態を確認していると、背後に気配を感じた。
……油断した!
くっ、後ろを取られたか。
「月、やめろ!」
永久さんの声が聞こえる。
月が飛び出してきて、私を突き飛ばした。
ーーザザザザっ。
狼が敵を口で掴み、ずるずると引きずっていく。
「俺は男だぞ。こういうときは――」
月が言い終わる前に、巨大な岩が空ではじけた。
ーーバキン。ゴオオオオオオ。
「……っ、く……」
岩が弾けたと同時に砂埃が立ち、目の前が真っ白になる。
何が起きたんだ。
目の前の埃をかき分けて、月のいた方向に足をずりながら進む。
私としたことが、さっき足を痛めたか……。
「……うっ……」
「月!!」
月に岩がのしかかっている。
叫び寄ると、血の匂いがした。
「……糸」
月は声がうまく出ないようだ。
体の半分ほどが岩に潰されている。
「……つ、月。い、今、助けるから」
動揺して、言葉に詰まる。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
「糸……大丈夫だ。落ち着け……。俺……糸と一緒に、地球を守るんだからさ。こんなとこで……」
永久さんも走って駆けつけ、必死に岩を押す。
「月、動くな。今、助ける」
「……永久。お前一人じゃ……無理だろ」
それでも永久さんは、歯を食いしばる。
私も瓦礫にやられた足を庇いながら岩に手を当てた。
永久さんの横顔は、震えていた。
「永久……糸を、頼む」
「何を言ってる」
「……俺はさ。お前が、糸のペアになると思ってたんだ。……俺より、ずっと相性がいいから」
私の涙が月の頬に落ちる。
血が止まらないようで、地面がどんどん赤く染まる。
この出血量は……。
月が……月が死んでしまう。
「だめだ、月。絶対に……」
敵の気配が近づいてくる。
時間がない。
月は、左目で永久さんをまっすぐ見た。
月の目が揺れる。
初めて見る顔だ。
「永久、約束だぞ……糸を、守れ」
ーーヒューン。ド、ドン。
敵の攻撃とともに、崩落の衝撃がもう一度走る。
岩が完全に崩れ落ち、粉塵が宙を舞った。
°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。
静寂に包まれた森。
遠くで、カラスが鳴いている。
戦場には、瓦礫だけが残っていた。
永久さんは立ち尽くす。
私は声にならない嗚咽をこぼすしかなかった。
「子」と胸元に書かれたリーダーらしき一名以外を永久さんとなんとか倒した。
月のもとに戻ると、岩の下にはもう月はいなかった。
ここには、私と永久さんしかいない。
空が暗くなり始めたとき、私の目の前で月の夢が砕け散ったのだーー。
寮の前。
青々とした木々は、気持ちよさそうに風を受けていた。
昨日言い渡された任務に出るため、先生たちを待つ。
『隕石落下の急増により、上官たちは全国各地の任務に出払っている。神くんと鶴くんの隊が鈴森村の任務にあたるように』
お祖父様の言葉を反芻する。
『占拠されている村の状況確認を任務とする。宇宙人を倒すことは任務外だ』
神先生と鶴先生がいれば、村を占拠する宇宙人を撃つことはそこまで難しくないだろう。
ただ、まだ学校に通う私たちが一緒に行動するとなると、現場観察というほかなかったのだろうな。
「月くん、忘れ物ない?」
「ありがとな、大丈夫だ」
ココちゃんがチャックが少し開いた月のリュックをこっそり閉めている。
月は人が変わったようにおとなしくなって、私の方を見向きもしない。
ココちゃんは気を遣ってくれて、私と月の間に立った。
「糸、スーツの襟が…」
永久さんが私の折れた襟を直してくれようとして「ああ! 私がやるから」とココちゃんの手がスッと伸びてくる。
その手を見ながら、月がいつもやってくれていたなと思い出す。
「…ありがとう」
月はこちらを見向きもしない。
次に話しかけるとき、何をまず話すべきなんだろうか。
龍のこと?
告白の返事?
地球を守るという約束のこと?
話さなければならないことばかりだ。
今まで自分の決断に後悔したことはなかったが、今回ばかりは"後悔"という言葉が頭をよぎったーー。
°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。
「さあさあ! みんな集まってるね〜! それじゃ、行きましょうか」
神先生は、遠足当日の小学生のように、るんるん気分だ。
任務なんだが。
「先頭が神先生、その後ろに永久と糸。その後ろにココと月、一番後ろに私。この陣営を崩さず、鈴森村に向かいます」
(戦術編:任に立つとき、まず陣を組むべし)
鶴先生の落ち着いた声の通りに隊を組むと、教科書の一文が頭をよぎった。
村までは走ってまる1日はかかるという。
乗り物は、相手に気づかれる恐れがあるので使用不可とのことだった。
「任務中は何があっても、ふたり以上で行動しないとだめだよ〜。何があってもだ。わかったね?」
「「「「ラジャ」」」」
初めて真面目な顔をした神先生に4人で揃って応答した。
°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。
夕焼けが見える。
村の近くまできたが、今日は森で夜を越すことになった。
村の視察は、明日の朝から。
洞窟の中で休む準備を始める。
先生たちは「30分ほどで帰ってくるから」と、周りの様子を確認しに行った。
「すぐそこに湖があったから水を汲んでくるね」
「俺、一緒に行くよ」
ココちゃんが持っている人数分の水筒に、月が手を伸ばす。
「大丈夫。近くだし、ささっとひとりで行ってくるから」
「神先生が何があってもふたりで行動しろって…」
「糸ちゃんと話さなきゃでしょ」
ココちゃんは、月に耳打ちして走って湖のほうに行ってしまった。
°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。
洞窟の中で、寝床を作ったり、火を起こしたり、それぞれ離れた場所で作業する。
月も永久さんも無言のままだ。
「糸、月、聞こえるか」
突然、永久さんが小声で私たちを手繰り寄せる。
「……敵か」
月と話すことばかり考えていて、気づくのが遅れた。
気配に集中し、人数を把握する。
「…1.2.3……少なくとも5人はいる」
5人という私の声を聞いて、月も永久さんもギュッと拳を握った。
「先生たちもココも、ここからは少し離れたところにいるだろう。俺たちだけでやるしかない」
°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。
「永久! 右だ!」
岩陰から飛び出した敵に気づき、月が叫ぶ。
「わかってる」
一拍遅れて、永久さんが白カラスを呼び出す。
白いカラスたちは、勢いよく敵を裂いた。
「永久さん、村が近すぎて被害が及ぶ可能性があります。ここでは龍は呼び出せません。カラスだけでやれますか」
敵は予想通り5人。
言葉で意思疎通をしているな。
ほぼ人間と言ってもいい宇宙人だ。
(接触記録:人型に近い宇宙人は極めて稀少。武力においては突出しないが、思考力高)
5人の中のひとりに違和感を持つ。
ひとりだけ、宇宙人ではないーー人間か?
ーーカキーン。カキーン、カキーン。
「くっ……」
剣で宇宙人が発する攻撃に対応する。
遠距離型か。
「ふたりとも、無理をするな! 狼!」
戦場の音の中に月の声が届く。
離れたところで狼が宇宙人に噛みつこうと距離を縮めている。
「あの中心にいる男がリーダーか」
永久さんは唇をゆがめた。
私が人間ではないかと予測しているヤツのことか。
ヤツの胸元をよく見ると……。
そこには「子」の文字ーー。
……十二凶のひとりがいるのか。
なぜ宇宙人と共闘している。
永久さんのカラスがヤツ目掛けて飛んでいくが、スッと交わしてまるで当たらない。
透明人間なのかというほどに。
「糸!」
遠くから月の声が聞こえたそのときだった。
地がうなり、遠くで崩れかけていた岩盤が敵の攻撃で一気に崩落する。
「な……っ」
……落ちてくる。
巨大な岩の塊が、粉塵を巻き上げながら迫る。
「糸、下がれ!」
永久さんが叫ぶ。
崩落が速く、反応が遅れた。
まずい。
「うっ――」
避けられず、足元を見ると落ちた瓦礫が目に入る。
足の状態を確認していると、背後に気配を感じた。
……油断した!
くっ、後ろを取られたか。
「月、やめろ!」
永久さんの声が聞こえる。
月が飛び出してきて、私を突き飛ばした。
ーーザザザザっ。
狼が敵を口で掴み、ずるずると引きずっていく。
「俺は男だぞ。こういうときは――」
月が言い終わる前に、巨大な岩が空ではじけた。
ーーバキン。ゴオオオオオオ。
「……っ、く……」
岩が弾けたと同時に砂埃が立ち、目の前が真っ白になる。
何が起きたんだ。
目の前の埃をかき分けて、月のいた方向に足をずりながら進む。
私としたことが、さっき足を痛めたか……。
「……うっ……」
「月!!」
月に岩がのしかかっている。
叫び寄ると、血の匂いがした。
「……糸」
月は声がうまく出ないようだ。
体の半分ほどが岩に潰されている。
「……つ、月。い、今、助けるから」
動揺して、言葉に詰まる。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
「糸……大丈夫だ。落ち着け……。俺……糸と一緒に、地球を守るんだからさ。こんなとこで……」
永久さんも走って駆けつけ、必死に岩を押す。
「月、動くな。今、助ける」
「……永久。お前一人じゃ……無理だろ」
それでも永久さんは、歯を食いしばる。
私も瓦礫にやられた足を庇いながら岩に手を当てた。
永久さんの横顔は、震えていた。
「永久……糸を、頼む」
「何を言ってる」
「……俺はさ。お前が、糸のペアになると思ってたんだ。……俺より、ずっと相性がいいから」
私の涙が月の頬に落ちる。
血が止まらないようで、地面がどんどん赤く染まる。
この出血量は……。
月が……月が死んでしまう。
「だめだ、月。絶対に……」
敵の気配が近づいてくる。
時間がない。
月は、左目で永久さんをまっすぐ見た。
月の目が揺れる。
初めて見る顔だ。
「永久、約束だぞ……糸を、守れ」
ーーヒューン。ド、ドン。
敵の攻撃とともに、崩落の衝撃がもう一度走る。
岩が完全に崩れ落ち、粉塵が宙を舞った。
°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。
静寂に包まれた森。
遠くで、カラスが鳴いている。
戦場には、瓦礫だけが残っていた。
永久さんは立ち尽くす。
私は声にならない嗚咽をこぼすしかなかった。
「子」と胸元に書かれたリーダーらしき一名以外を永久さんとなんとか倒した。
月のもとに戻ると、岩の下にはもう月はいなかった。
ここには、私と永久さんしかいない。
空が暗くなり始めたとき、私の目の前で月の夢が砕け散ったのだーー。