アースシールド♾️
第一次試験
ーーカリカリカリカリカリカリ。
「そこまで。第一次試験、終了だ。」
試験官の声で、一斉に筆記音が止まった。
「解答用紙を提出して、今日は帰宅しなさい。今日中に一次試験の結果を連絡する予定だ。合格者のみ、明日の二次試験に来るように。以上」
一次試験の内容は、組織に関する一問一答と、仲間と任務に出るための考え方や隊員の心得を問う記述問題などだった。
(問一・第二条〈隊員行動規範〉第一項から第七項まで、全文一致。問七・殉職者対応時の指揮系統、例外条件三つ)
問題集は8歳の頃にすでに満点を取っていた,
年々難しくなっていると言われる記述も、お祖父様から問われたことのある内容ばかりでスラスラと解き終わった。
解答用紙を試験官に手渡して、会場を出ようとすると見覚えのある姿が視界に入った。
「え…」
目の前に立っていたのは、試験前に出会った銀ジャケットの彼だ。
「あ……」
目が合って同時に立ち止まる。
「お前も受験生だったのか」
「はい…天城糸です。よろしくお願いします」
手を差し出すと、彼は私の手をまじまじと見て硬直した。
「…ああ。ごめんなさい。馴れ馴れしく…」
手の行き場がなく、引っ込めようとすると、グッとその手を握られて驚く。
ーーぎゅっ。
な、なんだ。
どうしたのだろうか。
「……手を差し出されたのが初めてで。悪かった…。握手しようってことか。金縄永久(かねなわ・とわ)だ」
握手が初めてなんてことあるか?
まあ、そういう人もいるか。
手を握り返すと、この手がどれだけの鍛錬を積んできたかを認識した。
やはりな…彼は、かなり強い。
「永久さん…」
男の人の名前を口にするのはいつぶりだろう。
少し照れ臭くて目を逸らす。
「歳は?」
「12です」
「今年、初受験か。俺もだ。歳は14」
「14歳…去年、一昨年は受けなかったんですか?」
「一昨年は試験日を忘れて、去年は気づい日に申し込み締切が過ぎていた」
落ち着いた雰囲気だけど、おっちょこちょいなのだろうか。
私ならそんなヘマはしないが。
「それは…その、残念でしたね。…あの…出口まで、一緒に行きませんか」
「ああ」
横並びになって出口へと歩みを進める。
誘ってみたものの、何を喋ったらいいのか。
男の人とふたりになることがなくて、急に緊張する。
って私、月は男だぞ。
横目で永久さんを見ると、会話がないことを気に留めた様子はなかっ。
でも、なんとなく気まずい。
「…試験、どうでしたか?」
話題を振ると、前を見ながら永久さんが応える。
「まあまあ」
「そうですか」
会話終了のお知らせ。
プライベートな話を振るにも、一次が終わったばかりでなんとなく気が引ける。
永久さんといるとなんだか調子狂ってしまう…困ったな。
廊下を進むと、たむろしていた受験生たちがコソコソと話していた。
「わー! 天城糸じゃない!? 天城恭さんと雅さんの娘」
「美人だし、強そ〜。さすが英雄の娘だな」
「スーパーエリート。同じ小学校に通ってたけど、どの教科も学年一位。全国模試もぶっちぎりの一位だったらしいわ」
「頭がいいだけじゃなくて、運動もピカイチ。陸上競技だったかな? 何種目も出てたらしいよ。全国大会」
同世代の男女が私をチラチラ見ながら盛り上がっていた。
地球を救った英雄の娘として、幼い頃から注目を浴びることが多かったし、数々のメディアに取り上げられた。
顔バレしていることもあって、こんなのは日常茶飯事だ。
またか。
聞こえていないふりをしながら、少し歩くのを早める。
「お前、有名人なのか?」
「え?」
有名人か?と真正面から聞かれたのは初めてで、反射的に永久さんの顔を見た。
挨拶を交わしたときの無表情さから一変して、少し心配そうな表情をしているようにも見える。
「話したくないなら話さなくていい。行こう」
そう言って私の手を取り、走り出した永久さん。
手を繋がれて、思わず心臓の音が早くなる。
ーードキドキドキドキドキ。
心臓の音が気になる。
それに、こんな速度になったことがない。
病気ではないよな…?
今日帰ったら主治医に診てもらうか。
胸のあたりを繋がれていない方の手でおさえなから永久さんを見る。
ただ前だけを向いて走る永久さんの姿。
心を包まれるような気持ちになって、ありがとうございます…と心の中で呟いたーー。
°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。
ーーさっ。
出口まで来て、お互いの手を離す。
試験会場という看板の前で立ち止まると、何やら考え事をしているようだった永久さんがこちらを向いた。
「大丈夫か?」
「へ? あ、はい。慣れているので…」
「…慣れるな、こんなの」
「…え?」
ボソッと永久さんが何か言った気がして聞き返す。
「なんでもない」
「…気を遣わせてしまったみたいで、申し訳ありません。ありがとうございました。…えっと…永久さんの家はどちらですか?」
さっき、手を引かれて、体の熱が冷めない。
動揺して、咄嗟に考えもしていなかった質問を投げかけてしまった。
「ハチコクヤマ、住んでるとこ」
「ハチコク…ヤマ?」
(地図データ即時検索。該当区域なし)
そんな街、この近くにあったか…?
「糸〜! 待たせたな!」
少し離れたところから、手をフリフリした月がこちらに向かって走ってくる。
「月か…」
軽い足取りだな、月も全部解けたのだろうな。
永久さんは月に気を遣ったのか「…じゃあな、気をつけて帰れよ」と言って背中を向けた。
「ありがとうございます。明日二次試験会場で」
永久さんにペコっとお辞儀をして別れ、月と合流する。
「誰だ? あいつ」
月は不審げに永久さんの後ろ姿を見ていた。
「…ちょっとな」
「糸が男と話すなんて珍しいな」
月の言う通り、あまり男の人と話すことがないから、さっきは緊張してしまったのだろうか。
月が不安そうに顔を覗き込んできて、ハッとする。
「…お前、男じゃなかったのか…?」
「うるせー! 俺は特別だろうが!」
ふたりで笑い合いながら、家への帰路に立った。
一次で2000人が落ちるが、私には関係のないことだ。
一次で解けない問題はなかったし、明日の二次試験に向けて、しっかり準備しよう。
月も、もちろん永久さんも、受かっていますように。