可愛いあの子の継母になるなら、獣人大公の嫌われ妻でも構いませんわ!〜どうやら私は侯爵家の悪女のようです〜
 なんでもない言葉だっただろう。

 事情を知らないのだから仕方ないが、アイリスは初めて言葉を失った。

(――なんて、言えばいいのかな)

 ここ数日でメイドたちとこのように楽しい会話ができるくらいの、心地いい信頼関係を築いてきたからこそ、思考が停止した。

 たぶん『アイリス』にとって、こんな関係は初めてだ。

 アイリスが受け取った彼女のこれまでの記憶に、屋敷内で笑う『アイリス』の姿は、探せない。

「奥様?」

 メイドたちが不思議がる。

 アイリスはにこっと微笑むに留めた。うまく愛想笑いを返したつもりなのに、メイドたちが戸惑う空気を見せた。

「いつも親切にありがとう。――こんなふうによくされたのは、ここが初めてよ」

 尋ね返される前に、ちらりとだけ答えておいた。

「ところで今夜夕食を一緒に過ごして、私は確信したの。やらなければならないことができたわ。聞いてくれる?」

 ポジティブな話へと変える。

「旦那様、子育てが下手すぎると思うのよ」
「ぶふっ」

 その時メイドたちのほう――からではなく、扉のあたりから吹き出す声が上がった。

 振り向くと、ブロンズが入室してくる。
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