可愛いあの子の継母になるなら、獣人大公の嫌われ妻でも構いませんわ!〜どうやら私は侯爵家の悪女のようです〜
 それは意外だった。

 『悪女』なので心配されるだなんて、頭になかったから。

「そ、そう、ですか」

 くすぐったい気持ちが込み上げて、ドレスのスカートを指先で弄りながら、こらえきれず視線を逃がしてしまう。

(頬が赤くなっているところ、見られないといいんだけど……)

 確信した。ヴァンレックという人は、子供が関わると視線が甘くなる。

 たぶん、きっとそのせいだ。

 アイリスからしても、自分はいかにも『悪女』だった。まだ装いを変えるチャンスは掴めていない。

「――アリムの前では、見ない顔だ」

 ぼそりと彼が呟く声が聞こえた。

 不思議に思ってそっと顔を上げると、腕を組んで身を乗り出すように覗き込んでいるヴァンレックと視線が合う。

(……少し、近付きすぎない?)

 驚いて反応できないでいる間も、彼は露骨にじーっと観察してくる。

 アイリスはつい、ぎこちなく愛想笑いで対応してしまった。

「えーと、旦那様――」
「気遣う人間の顔だ」
「はい?」
「いや、いい。思い返しても、あれは俺の前だけだ」
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