第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
ディランの部屋の前で、私は小さくノックをした。

「……ディラン?」

返事はない。

もう一度、少しだけ強めに。

「……?」

やっぱり反応がなかった。

(寝てるのかな……)

そう思いながら、そっと扉を開ける。

中は静まり返っていた。

カーテンは半分だけ閉じられ、夕方の光が柔らかく差し込んでいる。

机には書類が積まれたまま。
上着も脱ぎ捨てるように椅子にかけられていた。

そして――

ソファ。

そこに、ディランが横になっていた。

長い脚を少し折り、
片腕で目元を覆うようにして眠っている。

規則正しい呼吸。


(……珍しい)

いつも気を張っている彼が、
こんなふうに無防備に眠っているところを見るのは初めてだった。

思わず、足音を殺して近づく。

夕焼けの光が、金色の髪に溶けている。

「……綺麗だな」

ぽつりと、心の声が零れた。

起こさないように、そっと屈み込む。

眉も、睫毛も、眠っていると少し幼く見えて――

(ほんとに、無理してたんだろうな……)

伸ばした指先が、髪に触れそうになった、その瞬間。
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