第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

番外編 幻の魚が恋した味


宝石事件の数か月前。

トワと二人、穏やかなティータイムを過ごしていた。

「お嬢さーん!」

「なに、レオ?
このシフォンケーキ、すごくおいしい」

「はい! おいしいです!」

トワも頬張りながら、元気よく頷く。

「ありがとうございます!
中にくるみが入ってるんですよ!」

一瞬間を置いて、はっとしたように身を乗り出す。

「……じゃなくて!
これです!」

「なにそれ?」

トワと2人で、きょとんと首をかしげる。
レオが差し出してきたのは、画用紙に描かれた魚の絵だった。

「これ! 珍しい魚らしいんです!」

「へぇ……」

「エンジェルドラゴン!!」

「……へぇ」

「これ、探しに行きましょ!!」

「えっ!?」

「幻の食材らしくて、
しかもすっごくおいしいらしいんです!」

「ね! 行きましょうよー!!」

レオはそう言って、全身で嬉しさを表すように大きく揺れた。

「その絵、見せて」

「はい、どうぞ!」

レオから受け取り、目を落とす。

――上手だな。

鋭い口元に、長く伸びた髭。
どことなくドラゴンを思わせる、迫力のある魚だった。

それにしたって、
前にユウリが描いた私の似顔絵より、だいぶ上手だ。

ユウリが描いた私の顔は、
鋭い眼光で、まるで悪魔のようだった。

「レオって、絵が上手なのね」

「ありがとうございます!」

ぱっと顔を輝かせ、レオは胸を張る。

「料理って、盛り付けとかケーキとか、
デザイン画を描くじゃないですか!」

「だから、これくらいなら描けますよ!」

ふふん、と得意げに鼻を鳴らした。

「いいよ。
行こう」

急ぎの仕事もないし、
一日くらいなら問題ないだろう。

「やったー!!!」

レオが両手を上げて跳ねる。

「もちろん、トワ坊ちゃんも行きますよね!」

「う、うん」

少し間を置いて、トワも小さく頷いた。
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