第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

すると魚――いや、“それ”が、ぴくりと身を震わせる。

風が、ひとひら撫でるように動いた。

「……まさか」

喉が、ひくりと鳴る。

「これが……エンジェルドラゴン?」

沈黙。

「……とりあえず、持ち帰りましょ」

私は網の中の魚を見下ろして言った。

「え、食べないんですか?」

レオが目を丸くする。

「この大きさなら、煮付け……いや、素揚げ?
 それとも――」

言いかけて、レオは口を閉じた。

魚が、ぴくりと尾を揺らす。
その瞬間、風が一度だけ逆巻いた。
まるで怒っているようだ。

「……やめとこ」

「ですよね」

3人の意見は、自然と一致した。

「珍しい魚かもしれないし、
 下手に手を出すより、誰か詳しい人に見せた方がいいわ」

「そうですね。毒性があったら怖いですし」

私の意見にトワも頷く。

「じゃあ、水槽を用意します?」

レオがこちらを見る。

「……いや、それは違う」

「え?」
トワとレオが目を丸くする。

「これは……水槽に入れると、多分、まずい」

言いながら、自分でも理由をうまく説明できなかった。
ただ、本能的に、そう思った。

「桶で。
 風が抜けるように」

「……了解です!」

レオが元気に手を上げる。
その後、魚は驚くほど大人しく、
まるで“連れていかれる”ことを受け入れているようだった。

この時点では、
誰もまだ――その正体を深く考えていなかった。
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