第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
帰ってから、
レオはエンジェルドラゴンを新しい桶に移し替え始めた。

「この白ひげちゃんさ」

「……名前、つけたの?」

「普通の魚用のエサ、食べないんだよなぁ。
 今日はエビのウニソース和え、あげたんだ」

「なにそれ!」

思わず声が出る。

「貴族か!」

「だろ?
 しかもさ、同じメニュー続くと食べないんだよなぁ」

「めんどくさい魚ね……」

桶の中で、白ひげちゃんがふわりと尾を揺らす。
その動きに合わせて、微かに風が動いた。

「それでお嬢さん専門家の人はどうなったの?連絡とれた?」

レオがこちらみる。

「そうそう…トワが持ってた“幻の生き物集”、
 その著者に連絡取ったら今日、来てくれるみたいよ」

そう告げると、

「そうなんですね!」

トワの声が弾む。

「それにしても……」

桶を覗き込みながら、トワがぽつりと呟く。

「白ひげちゃん、なんだか不思議ですねぇ」

その言葉に、私は一瞬だけ魚から目を離せなくなった。

(……ほんとに)

水面は静かなのに、
風だけが、そこに“何か”あるみたいに揺れている。
< 225 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop