第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「……ところで」

専門家がふと顔を上げた。

「エンジェルドラゴンについて、
 どうしてご存じだったのですか?」

一瞬、空気が止まる。

「え?」

レオが目を瞬かせてから、
慌てたように画用紙を取り出した。

「これです!」

「農家仲間のジャマルおじさんって人が教えてくれたんだ!
 むかーし、そういう魚がいたらしいって」

「それで、特徴を教わって――
 絵、描いたんです!」

「ジャジャーン!」

そう言って差し出された画用紙に、
専門家は思わず目を見開いた。

「……これは」

「す、すごいですね。
 非常によく描けています」

「なるほど……」

絵と桶の中を見比べ、専門家は何度も頷いた。

「特徴の捉え方が正確です。
 文献でしか知られていない部位まで描かれている」

「へへ」

レオが、照れたように頭をかく。

「それと」

私は、自然な流れで言葉を足す。

「トワが持っていた『幻の生き物集』にも
 この魚が載っていました」

「ですので、
 著者であるあなたに連絡を取らせていただいた、
 というわけです」

「……なるほど」

専門家は納得したように息を吐いた。

「そういう経緯でしたか」

桶の中で、白ひげちゃんが小さく身を揺らす。
そのたびに、風がふわりと撫でる。

疑念は、静かに――霧散した。
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