第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
数日後。
研究施設の奥、
自然環境を再現した広い水槽の前に立っていた。
透明な水の中で、
白ひげちゃん――エンジェルドラゴンは、ゆったりと泳いでいる。
「……元気そうですね」
トワが、小さく安堵の声を漏らす。
「食事も問題なし。
環境にも、すぐ慣れたそうよ」
そう言いながらも、
私は視線を水面から離せなかった。
その時。
白ひげちゃんが、ふっと動きを止める。
こちらに気づいたように、
ゆっくりと泳いできて――水面近くで、尾を揺らした。
ふわり。
甘い香りを探すみたいに、
小さく鼻先を動かす。
「……?」
次の瞬間、
水面に、くるりと小さな渦が生まれた。
ほんの一瞬、
食卓に運ばれる湯気を追うような風。
「……あ」
レオが、目を丸くする。
「もしかしてさ……」
白ひげちゃんは、もう一度だけこちらを見て、
ひげをふわりと揺らした。
――まるで、
“また、あれを作ってくれ”
と言っているみたいに。
「……図々しい魚だな」
そう言いながら、レオは笑った。
白ひげちゃんは尾を揺らし、
ゆっくりと水槽の奥へと泳いでいく。
最後に、もう一度。
振り返る。
風が、くすっと笑うみたいに通り抜けた。
――きっと、あの魚は覚えている。
レオの料理のあの味を。
「……私の料理人を引き抜こうとしてるのかしら、白ひげちゃん」
「だめですよ!」
即座に返ってきた。
「俺はお嬢さんの専属料理人ですから」
そう言ってから、少しだけ声を落とす。
「……でも、また作ってあげるからな」
レオがひらりと手を振ると、
白ひげちゃんは嬉しそうに、ひげを揺らした。
研究施設の奥、
自然環境を再現した広い水槽の前に立っていた。
透明な水の中で、
白ひげちゃん――エンジェルドラゴンは、ゆったりと泳いでいる。
「……元気そうですね」
トワが、小さく安堵の声を漏らす。
「食事も問題なし。
環境にも、すぐ慣れたそうよ」
そう言いながらも、
私は視線を水面から離せなかった。
その時。
白ひげちゃんが、ふっと動きを止める。
こちらに気づいたように、
ゆっくりと泳いできて――水面近くで、尾を揺らした。
ふわり。
甘い香りを探すみたいに、
小さく鼻先を動かす。
「……?」
次の瞬間、
水面に、くるりと小さな渦が生まれた。
ほんの一瞬、
食卓に運ばれる湯気を追うような風。
「……あ」
レオが、目を丸くする。
「もしかしてさ……」
白ひげちゃんは、もう一度だけこちらを見て、
ひげをふわりと揺らした。
――まるで、
“また、あれを作ってくれ”
と言っているみたいに。
「……図々しい魚だな」
そう言いながら、レオは笑った。
白ひげちゃんは尾を揺らし、
ゆっくりと水槽の奥へと泳いでいく。
最後に、もう一度。
振り返る。
風が、くすっと笑うみたいに通り抜けた。
――きっと、あの魚は覚えている。
レオの料理のあの味を。
「……私の料理人を引き抜こうとしてるのかしら、白ひげちゃん」
「だめですよ!」
即座に返ってきた。
「俺はお嬢さんの専属料理人ですから」
そう言ってから、少しだけ声を落とす。
「……でも、また作ってあげるからな」
レオがひらりと手を振ると、
白ひげちゃんは嬉しそうに、ひげを揺らした。