第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

番外編 その手を差し出す日まで

お嬢様がディランにプロポーズされた後すぐのこと…
俺テオは騎士団の任務で、夜会の護衛についていた。

ダンスパーティーの護衛。
正直、気が進まない。

……あーあ。
お嬢様に会いたい。
あのクソ王子。。お嬢様の手を取りやがって。


笑ってるお嬢様の顔が、勝手に浮かぶ。
なんであの人はあんなに可愛くて綺麗なんだろう。


退屈だけど、投げ出すわけにもいかない。
俺は――お嬢様の騎士だ。

音楽が流れ、貴族たちが優雅に踊る。
きらびやかで、平和で、
それでもどこか、くだらない。

そう思いながら会場を見回して――
ふと、見知った人物に気づいた。

……あれは。

お嬢様と、以前お見合いしていた人物。
第2騎士団、オリバー団長。
あの時はほんとむかついたけど。

へぇ。

あんなふうに、自然にエスコートできるんだな。
手の取り方も、距離の詰め方も、様になっている。

……すご。

胸の奥が、ちくりとした。

お嬢様もあいつとこうやって踊るのだろうか。

なぜか、俺の視線に気づいたのか。
オリバー団長が、こちらへ歩み寄ってきた。

「君は、第3騎士団で――
 お嬢様と親しい騎士だね」

……親しい。

その言葉を、頭の中で一度転がす。
悪くない。
むしろ、少しだけ誇らしい。

「どうも。テオです」

「テオか。よろしく頼む」

強面な見た目に反して、口調は穏やかだった。
拍子抜けするほど、普通に親切だ。

「あの……」

「なんだい?」

「ダンス……上手ですね」

思ったまま、口に出していた。

「ダンス?
 一応、子爵家だからな。
 これくらいは踊れないと困る」

そう言って、少し照れたように頬をかく。

……意外だな、この人。

「俺でも……できる?」

自分でも驚くほど、小さな声だった。

「できるさ」

あまりにも即答で、
逆に面食らう。

「……ほんと?」

「ああ」

オリバー団長は、軽く笑って言った。

「よければ、教えようか?」

一瞬、迷って――
それでも、俺は。

こくん、と頷いていた。
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