第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

訓練の合間、空いた時間を使って――
オリバー団長が、約束通りダンスを教えてくれていた。

「まず立ち位置だ。
 それと……そう、腰に手を」

「こ、こう?」

「そうそう」

……意外と、難しい。

「ちょっと、ちょっと待ってくれ!!」

突然、割り込んできた声。

「なんだ、エリック?」

「なんだじゃないですよ!!
 なんで俺が、こいつのダンス相手なんですか!!」

噛みつくように叫ぶ。

「あ、えっと……お願い。
 エト? エリ? エリクソ?」

「エリックだ!!
 人をハナクソみたいに言うな!!」

くわっと、全力で怒鳴られる。

……名前、覚えてなかったのは悪かったか。

「まあまあ、いいじゃないか」

オリバー団長が、落ち着いた声で間に入る。

「騎士として、
 剣だけでなく社交も身につけようとしている。
 それなら、協力すべきだろう?」

「……はあ。団長がそう言うなら」

エリックは渋々、肩を落とした。

「でも言っときますけど、
 俺、手加減しませんからね」


「それでいい」

「あと、テオだったか?
 お前、敬語使え! 敬語!」

「わかった」

「わかりましただろうが!!」

……早速か。

エリックのレッスンは、想像以上に厳しかった。

「おい、前を見ろ。
 下を向くな!
 足を踏むな!!」

「うん……」

いや、無理だろ。
同時にそんなに意識できない。

――む、難しい。

こんなに難しいのか、ダンスって。

「とにかく姿勢だ!
 お前は姿勢が悪い!
 腹に力を入れろ!」

ぐいっと背中を叩かれる。

「それから、顎を引け」

言われた通りにすると、首が少しきつい。

「紳士としてエスコートできないなんて、
 美しくない!!」

……美しい、か。

剣なら、
相手を倒すために構える。

でも、これは違う。
相手を導くための姿勢だ。

そう思った瞬間、
言われていることが、少しだけ腑に落ちた。

エリックは相変わらず口は悪いが――
アドバイスは、やけに的確だった。
< 231 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop