第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

そして――
最終試験だ。

そう言われ、
俺はエリックの屋敷へとやって来た。

……さすが、子爵家。

白い石造りの建物に、整えられた庭。
窓からこぼれる光まで、どこか上品で――
正直、場違いにもほどがある。

こんな、きらきらした場所に。
俺みたいなのが、足を踏み入れていいのか。

背筋を伸ばしながらも、
心臓は落ち着かない。

――と。

ふと、視界の先に
見慣れた人物が立っているのが見えた。

「……あ」

エリックだ。

腕を組み、いつもの仏頂面でこちらを見ている。
いつもの髪型ではなく、オールバックにして、シワひとつない質の良いスーツに身を包んでいる。

「おい。
 いつまで突っ立ってる」

そして、短く。

「はやく来い」

……相変わらずだな。

でも。

その声を聞いた瞬間、
不思議と、足が前に出た。

ここまで来たんだ。
逃げる理由なんて、もうない。

俺は深く息を吸って、
エリックのもとへと歩き出した。

「これに着替えろ!」

言われたのは上質なスーツ。
俺は言われた通りに身を包む。布の感触が少し硬く、慣れないけれど、背筋が自然と伸びる。

「この髪型も鬱陶しいな」

「整えてやってくれ」

エリックの侍女たちが、俺の髪に手を伸ばす。
けれど、思わず口を開いた。

「待って」

その声に、手が止まる。
瞳を見せたくない――あの紅い瞳は、きっと人を怯えさせる。
自分でも、どこか冷たい目だと感じている。

けれど、エリックは大げさにため息をついた。

「隠してる方がよっぽど不気味だ!
髪の毛で目を隠すなんて、獣に見えるぞ。やめろ。
お嬢様と一緒に踊りたいなら、堂々としろ。そうじゃなければ美しくない!」

その言葉に、胸がぎゅっと熱くなる。
獣みたいだと言われるのは心外だけれど――

「そうだぞ、テオ。」

扉の方から聞こえた声。
オリバー団長が、いつの間にか立っていた。

「お嬢様は、気にしないはずだ。瞳の色で人を判断するような方ではないだろう」

お嬢様――あの人が、俺の瞳をルビーみたいに綺麗だと言ってくれたことを思い出す。
あの一言が、胸の奥で小さな灯をともしていた。

立ちすくむ俺の心を、少しずつ決意が押し上げる。
お嬢様の隣に立つためには、自分を隠してはいけない。
ありのままの自分で、堂々と――。

俺を騎士にしてくれたのは、お嬢様だ。
だから――その信頼を裏切るわけにはいかない。
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