第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「……わ、わかった」
「では。エスコートしてください」
その言葉に戸惑って立ち尽くしていると、アリスがふっと言った。
「……わかりました。お嬢様に、似せましょう」
「……?」
何を言い出すんだ、と思った次の瞬間。
アリスは小さく咳払いをする。
「ねぇ、テオ。
私を、ダンスに誘ってくれる?」
……
「……似てない」
思ったまま口にすると、
「チッ」
盛大な舌打ちが返ってきた。
「……ごめん」
反射的に謝る。
「せっかく、お嬢様からこのドレスをお借りしているんですから」
そう言われて、改めてアリスの装いを見る。
確かにそれは――お嬢様が、昔身にまとっていたドレスだった。
『ねぇ、テオ』
そう呼びかけたお嬢様の記憶が自然とよみがえる。
スミレ色と桃色の髪。
柔らかくて、少しだけ照れたような笑顔。
――気づけば、俺は手を差し出していた。
「……俺と、踊ってくれますか?」
その言葉に、アリスは満足そうに微笑み、手を取る。
お嬢様ではない人と踊るのは……不思議な感覚だ。
相手の呼吸を感じ、歩調を合わせる。
踊るというのは、思っていた以上に難しい。
「……なかなか、ましですね」
アリスの評価に、思わず口元が緩む。
「……ほんと?」
「ええ。足を踏まれる覚悟はしていましたから。
ヒールの甲に針を仕込むか、少し悩んだほどです」
……この人の言葉が、どこまで本気でどこから冗談なのか。
未だに、判断がつかない。