第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「……殿下の話も、聞かせてください」

自分からそう言ったことに、
少し驚きつつも。

「うん、いいよ」

今度は、ディランが語り出す。

彼の視点から見た、お嬢様との出会い。
出会った頃のお嬢様は、
すでに馬術や剣術に触れていたらしい。

「変わった子だな、って思ってた」

「……確かに」

思わず同意してしまう。

「普通の令嬢とはさ、全く違って」

「剣の腕も、馬の扱いも、
 驚くほど上達してた」

その言葉に、
胸に浮かぶのは、何度も背中を追いかけた記憶。

「私もです」

自然と、そう口にしていた。

「いつも前を行くお嬢様に、
 圧倒されていました」

追いつきたくて、
置いていかれたくなくて。
だから剣を取り、ここまで来た。

(……結局)

この人も、俺も、
同じ背中を見てきたのかもしれない。

「お互い、彼女に骨抜きにされてるな」

ディランはそう言って、天井を仰いだ。

「……そうですね」

短く返しながら、
否定する気はなかった。

(骨抜き、か)

確かにその通りだ。
誇張でも冗談でもない。


「で、セナ。君は――」

一拍置いて、にやりと笑う。

「ティアナの、どこが好きなんだい?」

ピクリ、と眉が動く。

「……随分と直球ですね」

「酒の席だからね」

ディランは肩をすくめた。

俺はグラスを置き、少しだけ視線を落とす。
迷いは、ほとんどなかった。

「……強いところです」

即答だった。

「剣が強いとか、魔力がどうこうじゃない。
 怖くても逃げない。
 自分が傷つく可能性があっても、誰かの前に立つ」

言葉を選びながら、続ける。

「それでいて……
 自分が強いなんて、微塵も思っていない」

小さく、息を吐いた。

「自然と誰かのために動いて、
 それを特別なことだと思わない。
 ……そういうところです」

ディランは、黙って聞いていた。

やがて、くつくつと喉を鳴らす。

「なるほど」

そして、少し楽しそうに言った。

「君らしい答えだ」
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