第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「セナ」

「何ですか」

「君が、ティアナの騎士でいてくれて良かった」

「……何ですか、それ」

「強くて、誠実で、
 何よりティアナの身を本気で案じている」

少し照れたような言い方に、思わず肩をすくめる。

「それはそうです。
 ……貴方以上に、大切に思っています」

「それはない」

間髪入れず、断言された。

「というか、セナ。
 お前、ティアナと踊ったとき、距離が近すぎたぞ」

――離れろ、と口パクで言われた、あの時か。

「あれは……
 お嬢様が俺を煽ったんですよ」

「煽る、だと?」

「“私の専属騎士なんだからダンスぐらいできるでしょ”って」

「それはそれは……」

ディランは苦笑する。

「なかなか、強引な誘いだな」

「ええ」

「……羨ましい」

「そうですか?」

「俺は、誘われたことないのにな」

「それはまあ……
 お嬢様とは、付き合いが長いですから」

少しだけ、胸を張る。

「それよりもだ」

ディランが、じっとこちらを見る。

「なんで、あんなに距離が近かった。
 耳打ちで、何を言った?」

――あの時。

悩んでいたお嬢様に、俺は。

『ティアナが悩んでいるなら、
 俺が口説いてもいい』

冗談だと言った。
……だが、割と本気だった。

「……内緒です」

「そこまで来てか」

「教えろ」

「嫌です」

「王子命令だ」

「そんな横暴な……」

ディランはニヤリと笑う。

「わかった。なら勝負だ。
 セナが酒で潰れたら、言え」

「それ、俺に得ないじゃないですか」

「じゃあ、セナは何がいい?」

少し考える。

「……じゃあ、婚約破棄してください」

「それは、見合わないだろ」

即却下。

「なら――
 お嬢様に会いに来る頻度、週に一度にしてください。せめて」

思わず本音が漏れる。

(この王子、暇さえあれば来すぎなんだ)

< 242 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop