言えない。言わない。
昇降口の前には、人がたくさん集まっていた。

ランドセルの色が、いろんなところで揺れている。

親の声。

先生の声。

知らない子どもたちの声。

入学式の朝の空気は、思っていたよりにぎやかだった。


奏は、その少し後ろで立ち止まった。


なんとなく視線が動く。

そして、すぐに見つけた。


紫がかった、肩くらいのまっすぐな髪。


その子は、二人と並んで歩いていた。

長い髪の女の子と、もう一人。


……もう一人。


奏「……玲央?」


思わず声が出た。


奏「玲央!」


振り向いた顔を見て、すぐ分かる。


玲央「あれ、奏じゃん」


奏「同じ学校だったんだな」


玲央「まあな」


昇降口の前は、人の流れがゆっくり動いている。


奏「何組だった?」


玲央「一組」


奏「え、俺も」


玲央「まじ?」


奏「まじ」


玲央「よろしくな」


その会話の間にも、視線がそっちへ向く。

肩くらいの髪の女の子。

その子が、ふと振り返った。


雫「玲央、先いくね?」


玲央「おー」


その横で、長い髪の女の子が手を振る。


月乃「あとでね!」


二人は並んで、昇降口の方へ歩いていった。

奏は、なんとなく聞いた。


奏「あの子たち、友達?」


玲央「ん?どっち?」


奏「あっちの」


玲央がちらっと見る。


玲央「あー」


玲央「長い髪の方は友達」


玲央「もう一人は、はとこ」


奏「はとこ?」


玲央「うん」


奏は小さくうなずく。

家族みたいなものか。

……そうなんだ。

胸の奥が、少しだけ軽くなる。

人の流れに紛れて、二人の姿は見えなくなった。

玲央が靴を履き替えながら言う。


玲央「教室行くか」


奏「うん」


二人は並んで廊下を歩き出した。

廊下の奥には、一年生の教室が並んでいる。

さっきの二人の姿は、もう見えない。

でも。

紫がかった髪の女の子の姿は、まだ頭の中に残っていた。

ただ、なんとなく。


同じクラスだったらいいな、と思った。

そんなことを考えながら、

奏は玲央と一緒に教室へ向かっていた。


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