非道な殺し屋頭領は、甘美な毒で花を欺く

「念のための聞くが、こいつらは椛の手の者か?」

 暁がそう言って、彼岸花の花が咲く着物をぞんざいにつかむ。黒鳶色の着物の背には、椿の花と炎を模ったような紋。見覚えのあるその徴に、椛は背筋がゾッとした。

(あれは、椿姉さんが特に信頼している者のみに使わせているもの……)

 椿は兄姉たちの中でも特に神経質で、不知火家の一部の人間しか信頼していない。それは、おそらく母のことが一因にあるのではと椛は思っているが……

 椿は不知火の中でも信頼できる臣下だけに、着物に特別な紋を付けることを許していた。その紋を使用する者は、椿の指示に忠実だった。

 もし不知火の中で意見が割れることがあれば、当主である父ではなく迷いなく椿のほうに従う。それくらいに。

「不知火の者ではありますが、彼らのことは何も聞かされていません……」
「なるほど。それなら問題ないな」

 暁はそう言うと、廊下に落ちた椛の短刀を拾った。そうしてそれを一振りすると、美しく咲く彼岸花を茎から斬り落とす。

 首を切られたように落ちていく花の花弁があたりに飛び散る。その赤が、まるで血のようだ。

 続けてもうひとつの着物をつかむと、暁が氷のような冷たい目をして無感情に彼岸花を叩き切る。

 わずかな月明かりがだけが差し込む部屋で、真っ赤な花が、花弁を飛び散らせながら宙を舞う。

 鮮血のような花弁の赤が、椛の心が激しく揺さぶった。

 赤は恐ろしい。特に血の赤は――

 目の前で飛び散る赤に、椛の思考が混乱し、呼吸の仕方も忘れそうになる。

「はっ……」

 椛が胸を抑えて蹲っていると、不意に視界が暗くなった。
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