非道な殺し屋頭領は、甘美な毒で花を欺く
「すまない。椛は赤が苦手だったな」
椛の目元を覆うひんやりとした手。それが暁のものだと気付いて、胸が騒いだ。
冷たい目をして無情に花を切り捨てたくせに、椛の耳に届く暁の声はやけにやさしい。
殺し屋としての暁と椛に接するときの暁。
別人のようなふたつの顔に、椛は戸惑いを隠せなかった。
椛は暁を殺しにきた不知火家の人間。何も知らなかったとはいえ、椛は暁が倒したふたりの男たちの同胞だ。
全てが暴かれたのに、暁がまだ椛を気遣う理由がわからない。
「なぜ、そんなに気にかけてくれるのですか。わたしは初めからずっとあなたを騙して殺すつもりでいたのに……」
目元にあてられた手を引き剥がすと、暁が椛の顔を間近で覗き込んできた。
「そうだな。だが俺も、おまえの命を狙う者を抹殺しろという依頼を受けている」
「……それは、誰から……?」
「依頼主は言えない。おまえも不知火の人間ならこの仕事をするうえでの決まり事を知っているだろう」
ひとりごとのような椛のつぶやきに、暁が淡々と答える。
けれど、椛が聞きたかったのは依頼主のことではなかった。それだってもちろん気にはなるが、それよりも恐ろしかったのは自分の命が狙われていたことだ。
もしかしたら、この単独任務は仕組まれたものだったのではないか。だとしたら、どこからだろう。
父は関わっていたのだろうか。それとも、椛の単独任務を知った姉が独断で信頼できる刺客を送り込んだのだろうか。
いずれにしても……
「姉さんの刺客はわたしを狙ってた……?」
「ああ、あれはおまえの姉の差し金だったか。それなら次は、その姉を殺らねばな」
暁の瞳が、ほんの一瞬鋭くなる。そのまなざしに、椛はビクッと震えた。
「姉を……?」
怯えの色を見せる椛に、暁は「そうだ」と不敵に笑ってみせる。それから椛の着物の左袖を捲ると、痣の残る腕をそっと撫でた。