非道な殺し屋頭領は、甘美な毒で花を欺く
「これだって、おおかた姉の仕業だろう。俺が仇を討ってやる」
低く冷たい声からは、暁の静かな殺意が感じられる。
暁は、誰かから受けた依頼で姉を殺すつもりなのだ。
物心ついた頃から、姉の椿には嫌われていると気付いていた。
けれど、まさか殺したいと思うほどに姉に憎まれているとは思わなかったし、その事実を知っても、暁に姉を殺してほしいとは思えない。
おそらくそれは、殺し屋としての椛の最大の欠点。
どれほどひどい仕打ちを受けても、姉を心の底からは恨んだりできない。
「あなたに仇を討ってほしいなどと思いません。それにわたしが姉に殺されるほど憎まれているのは、そもそもあなたのせいではないですか……!」
「なぜだ?」
「六年前、あなたが母を殺したからです。覚えているでしょう? 不知火家に忍び込んできた夜のこと。父は他の男を母殺しの犯人として捕まえましたが、わたしが見たほんとうの犯人はあなたでした。母は、わたしを守るように殺された。だから姉は、わたしのせいで母が死んだのだとずっと恨んでいる。そうでなくても、姉は母がわたし贔屓だと思っていましたから」
殺された母は、兄姉たちの中でも特に椛のことを気にかけていた。
というのも、不知火家では椛の出生についての悪い噂があったからだ。
母が椛を身籠ったことがわかったのは、父が数ヶ月以上もの長期任務で家を離れていたときのこと。それから椛が生まれるまでに、父は何度か長期の任務に出かけ、椛が生まれた日も父は不在だった。そういったこともあって、椛は母の不義理の子ではないかという噂がたった。
その噂は不知火の一族の中にまことしやかに広がっていき、物心ついたときにはすでに、椛は兄姉たちを含めた一族の者たちから疎外されていた。
いつもひとりぼっちでいる椛のことを、母はことさら気にかけた。自分の目の届くところに椛をおいて、心ない身内の悪意から守ろうとしてくれた。
けれど姉の目には、それが母が椛を過度に可愛がっているように映っていたのだろう。