非道な殺し屋頭領は、甘美な毒で花を欺く
姉は兄たちとは笑って話すのに、椛とは子どもの頃からほとんど目も合わせてくれなかった。事あるごとに椛を目の敵にして、母の見ていないところで嫌がらせをしてきた。
嫌われているのがわかっていても、椛は姉と仲良くなりたかった。そうして姉に近付いては、邪険にされて疎まれた。
姉は母が椛ばかりを愛していると思い込んでいたようだが、母の子どもへの愛情の与え方は平等だったと思う。
母は四人の子どもすべてにやさしくあたたかいまなざしを向けていたし、誰かが鍛錬で怪我をしたときには文字通り死ぬほど心配していた。
ただ、一族の中で疎まれていた椛への愛情の見せ方がほかの兄姉にすること少し違っただけ。
でも、姉にはそれがうまく伝わっていなかった。だって、幼い子どもは、どれだけやさしい言葉をかけてもらえるか、どれだけたくさん抱きしめもらえるか、わかりやすく目に見える物差しで愛を測る。
だから、姉は常に椛に嫉妬していた。そのうえ、母は椛を守って殺されたのだ。
『お母様が死んだのはおまえのせいだ』
母が亡くなったあと、姉からは何度も激しい怒りをぶつけられた。悲しかったけれど、椛はそれを仕方のないことだとも思った。
出来損ないの椛が任務で失敗する度に、罰を与えられることも。
姉はもう、母に愛されていたことを確かめることができないのだから。
「そうか……それでも、俺は椛の命を狙う者を抹殺しなければならない。報酬とともに受けた依頼は必ず遂行する。それが黒羽の頭領としての務めだ」
障子の向こうからわずかな月明かりだけが差し込む部屋に、暁の声が静かに響いた。
突き放すような冷たい声に、椛は胸の端っこがきゅっと縮むような気がした。
この七日間見てきた暁は、少し怠惰で適当で、けれど椛にやさしかった。その姿にずっと欺かれてきたが、やはりこの男は、任務のためなら無情になれる生粋の殺し屋なのだ。
「だが、今の椛に姉を気にかける余裕があるのか?」
無言の椛に、暁が問いかけてくる。わずかに目を見開く椛に、暁は含みのある笑みを見せた。