胡蝶の夢を貴方と
「あんた、いい人に身請けされるね」

女将の声に若紫はその場に崩れ落ちそうになった。身請け話は「想いを寄せている相手がいる」と言っても避けることはできない。客と見世側だけで話が進むからだ。

(わっちは、龍之介様の妻にはなれない……)

ずっと鳥籠の外に出ることを夢見ていた。龍之介から聞いた場所へ足を運びたいと思っていた。しかし、龍之介の隣に並ぶことはもうできない。許されない。

「龍之介様……」

おしろいを塗った頰に涙が伝った。



鴨太郎との身請けの準備は進んでいき、龍之介に会えないまま見世を出る前日を迎えてしまった。若紫は部屋でぼんやりと格子のついた窓を見ていた。

(この格子のない空を見上げることが夢だったんだけどね……)

明日、若紫は鴨太郎の妻として吉原を出る。吉原に来た時から、この見世で遊女として働き出した時から、若紫は身請けされて自由になることを夢見ていた。きっと身請けされる時は幸せで溢れているのだと、信じて疑わなかった。
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