胡蝶の夢を貴方と
会いたかった人にやっと会うことができた。若紫の胸に喜びが広がる。龍之介は優しく微笑んでいた。

「若紫。久しぶりだな」

「はい。ずっと龍之介様にお会いしたいと思っておりんした」

龍之介の手が若紫の頭に伸びた。彼の指は今、藤の花の簪に触れている。

「この簪、つけてくれていたのか。ありがとう」

「……大切な贈り物ですから」

もう龍之介と会えるのは今夜で最後だ。吉原での偽物の恋愛、偽物の夫婦が幕を閉じる。若紫はただ笑った。

「……女将から、お前が明日身請けされると聞いた。幸せになってくれ。俺は、お前を身請けできなかった。すまない」

今、互いに手を取って逃げられたらどれだけいいだろうか。格子の窓も、吉原を囲む壁も飛び越えて、龍之介と二人だけの場所へ行けたらどれだけ幸せだろうか。堪えていた涙が、若紫の頰を伝う。

「若紫……」

龍之介の指が頰に触れた。たったそれだけのことで、若紫はこの胸に確かな幸せを感じている。

(ああ、とても温かい。ずっとこうして触れられていたい……)
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