胡蝶の夢を貴方と
若紫は想いを口にする。

「龍之介様。わっちは、あなたをお慕い申しております。あなたとここから逃げたいほどに、あなたを想っておりんす」

龍之介も想いを口にする。

「私も、若紫を慕っている。できれば私の妻としてそばにいてほしかった」

二人で逃げることは許されない。足抜けは重罪だ。捕まれば殺されてしまう可能性もある。若紫も龍之介も、互いが生きていくこと道を選んだ。

「龍之介様、これをわっちだと思って持っていただけませんか?」

若紫は頭から簪の一つを外し、龍之介に手渡す。その簪は、若紫が龍之介と初めて会った時から身に付けているものである。若紫と龍之介の過ごした時間が刻まれたものだ。

「ありがとう。大切にしよう。君も、その簪を大切にしてくれないか?」

龍之介の指が藤の花の簪に触れる。若紫は「はい」と頷く。そして、若紫と龍之介の唇が優しく触れた。何度も何度も触れた。

「来世では必ず結ばれよう」

そう二人は約束し、短い夜が明けた。



時は令和。場所は東京。政治、経済、文化の中心地であり、世界中から観光客が訪れる都市である。

そんな街のとある高校では、今日入学式が行われる。一人の少女が学校へと向かっていた。その時、声をかけられる。

「あの!これ落としましたよ!」

少女は振り返る。自分と同じ制服を着た少年が、少女のハンカチを持っていた。目が合った刹那、少年と少女の瞳から涙が溢れ出す。

「あれ?何で涙が……」

少女は涙を拭う。悲しくはない。しかし、涙は止まらない。少年がハンカチを差し出す。

「何だか、君とは初めて会った気がしないな」

春風が二人を撫でるように吹いた。
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