【書籍3巻発売中】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う【コミック3巻発売中】
 唯一、スイレンが自在に扱う事の出来る花魔法も、適性の関係で使用出来る人数が少なく魔法大国と呼ばれるガヴェアでも珍しい魔法だが、お金になるとは言い難い。

 例え寒風が吹き込む狭い小屋だって、屋根がないよりはマシだと、そう自分に言い聞かせて、これまでここで生きてきた。

 これからも、きっとそうだろう。

 小屋に敷かれた藁の上に古びた毛布を被って、スイレンは少しでも身体が温かくなるように丸くなった。

(あの人も……こんな風に、寒い思いをしているかもしれない。明日の早朝。誰も居ない時になら、彼に話し掛けられるかもしれない。花の種の在庫は、十分にあるから。明日の朝は、種を仕入れに市場に行かなくても良い日だし……彼に会いに広場に、行ってみよう)

 目を閉じて眼裏に浮かぶのは、囚われの竜騎士の強い光を秘めた茶色の目だった。

 あの目に自分を映すことが出来るのだとしたら、それはなんて幸せなことなのだろう。



◇◆◇



 朝起きてから、その日に会いたい人が居るというのは幸せなことなのだと、スイレンは珍しくすっきりとした気分でそう思った。

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