【書籍3巻発売中】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う【コミック3巻発売中】
 竜は特に準備動作することなく、大きな羽根を広げ、空へと向かって飛び立った。

(彼が、行ってしまう!)

 強い焦燥を咄嗟に感じたスイレンは、せめてもと思い自分の魔力を全部使って数え切れない程の魔法の花を飛び立って行くリカルドの周辺に咲かせた。

 リカルドの驚く顔がこちらを見て、それに気がついたスイレンは精一杯の笑顔で微笑んだ。

 せめて、去ってしまうあの人の思い出にある自分は笑顔で残りたかった。

 空でリカルドを待っていた竜騎士達は、彼と一緒に攻撃魔法の届かない高さへと上昇していく。

 スイレンは、自然と涙が頬にこぼれてきたのを感じた。

(もうこれで二度と会うことも、ない)

 儚い恋の終わりを悟りスイレンは袖で涙を拭うと、自らの決められた運命へと戻るために心の準備をする。

 あの人が、この国から逃げ出してどこかで生きている。

 そう思えば、これからの辛いこともきっと乗り越えていけるような気がするのだ。


 深呼吸をして、もう一度空を見上げたスイレンに信じられないことが起きた。

 上空から一匹の竜が、信じられない速さで直滑降で降りてくるのだ。

 そして、気がついた時には太い腕に抱かれ、既に高い空の上に居た。

 この身に起きたことと言えど、どうにも頭には理解が追いつかなくて、眼下でどんどん小さくなって行く王都を何も言わずに見つめた。

 自分の決められていた運命が音を立てて変わっていくのを、スイレンは喋ることもままならぬほどの強い風に吹かれながら、感じていた。



< 26 / 340 >

この作品をシェア

pagetop