青春×6

近いのに、遠い

花火大会の日。

朝から、なんだか落ち着かなかった。

浴衣に着替えて、
ママに髪もセットしてもらって。

鏡を見る。

「……いい感じかも」

ちょっとだけ、にやける。

スマホの充電も満タン。

準備は完璧。

——の、はずだった。

外に出た瞬間、
空がどんよりしているのに気づく。

嫌な予感。

そして、駅に着いたとき。

「現在、○○花火は中止の予定です——」

アナウンスが、淡々と流れる。

「え……」

思わず立ち止まる。

うそでしょ。

周りからも、

「まじかー」
「最悪じゃん」

って声が聞こえる。

せっかくの浴衣も、
楽しみにしてた時間も、

一気にしぼんでいくみたいだった。

「どうする?」

「とりあえずご飯行く?」

そんな流れで、

近くの サイゼリヤ に入ることになった。

みんなでテーブルを囲む。

ちょっとだけ残念な空気。

でも、誰かがふざけたりして、

少しずついつもの感じに戻っていく。

席は、なんとなくで決まった。

そして。

——隣に、加戸。

「……」

一瞬だけ、緊張する。

でも、何も言えなくて、

そのまま座る。

メニューを開く。

「なに食べる?」

誰かの声。

私は適当に注文を決めた。

でも、

隣が気になって仕方ない。

ちらっと見る。

加戸は、

スマホを見ていた。

ゲーム。

「食べないの?」

思いきって聞く。

「んー、腹減ってない」

画面から目を離さずに答える。

「そっか」

それだけ。

また、沈黙。

料理が来る。

私はフォークを持って、食べ始める。

でも。

視線は、なんとなく横へ。

ゲーム画面がちらっと見える。

「なにそれ」

「普通のやつ」

「どんなやつ?」

「説明むずい」

ちょっとだけ笑う。

そんなやりとりをしながら、

気づく。

——近い。

肩が、少しだけ触れそうな距離。

画面を一緒に見るから、

自然と顔も近くなる。

ドキドキする。

めちゃくちゃ。

でも。

加戸は、

いつも通りで。

何も気にしてないみたいに、

普通にゲームをしてる。

「……」

なんか、悔しい。

こんなに意識してるの、
私だけみたいで。

でも。

嫌じゃない。

むしろ、

この距離が、ちょっと嬉しくて。

「ここどうやんの?」

気づけば、そう聞いていた。

「こう」

指が、画面を動かす。

その手元を、近くで見る。

ほんの一瞬、

指が触れそうになる。

——やば。

心臓が、跳ねる。

でも、

加戸は変わらない。

何もなかったみたいに、

またゲームに戻る。

近いのに。

すぐ隣にいるのに。

なんでこんなに、

遠く感じるんだろう。

外は、まだ雨。

本当なら、

今ごろ花火が上がってたはずなのに。

その代わりに、

胸の中で、

小さな音がずっと鳴っていた。
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