その恋、仕様外につき――鉄壁SEは御曹司の暴走を許さない

第2話:仕様外の距離


 四月二日、朝。
 怜は駅のホームで、ガンガンと鳴り響く頭痛を「気合」という名のパッチで強引に抑え込んでいた。

(……ああ、飲みすぎた。まだ木曜なのに。でも、ちゃんと間に合ったから、結果オーライよ)

 今日は、全コアメンバー三十人での最初のキックオフ。
 怜は、カバンに入ったノートPCの固さを確かめる。中身は、二週間かけて抽出した「Arkの脆弱性リスト」だ。

(一見すると、仕様は全て満たしていた。でも、それだけ。この仕様で実装すれば、動かしたその日のうちに、サーバーはパンク。サービスは停止する)

 ――プロジェクト『Ark(アーク)』。
 その目的は、日本経済の心臓部といえる巨大複合企業『帝国ホールディングス』傘下三十社の、バラバラに運用されている基幹システムを一つに統合することだ。

 銀行、不動産、運輸……。それぞれが独自に進化させてきた『継ぎ接ぎだらけのシステム』を、最新のクラウド上でリアルタイムに連携させる。
 言葉で言うのは簡単だが、これは実質、バラバラのパズルを無理やり一枚の絵に繋ぎ合わせるようなもの。

 予算は、開発費だけで五百億。
 通常なら三カ年は要するこの巨大プロジェクトに、提示された工期はわずか「一年」。

(これを成功させれば、うちの会社は業界の頂点に立てる。でも、失敗すれば……倒産しかねない。そんな重荷を、あのアメリカ帰りの王子様に任せるわけにはいかない)

 怜は、鞄の持ち手を強く握り締めながら、会社へと向かった。

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