その恋、仕様外につき――鉄壁SEは御曹司の暴走を許さない
「何よりの問題は、あの男が『どこまでも誠実』ってこと!」
「いや、意味わかんない。一年間一緒に仕事するんだから、悪人よりは善人の方が絶対いいと思うけど」
理奈の能天気な言葉を否定するように、怜は、ダァンッ! とジョッキをテーブルに叩きつけた。
「誠実……なんて、プロジェクト進行にはマイナス要素でしかない!」
怜は眉間に深いシワを寄せ、これでもかと力説する。
「仕事に『いい人』なんて不要なの! 必要なのは、納期を守り、予算を管理し、冷酷に判断を下せる人間よ!」
脳裏に浮かぶのは、自分に頭を下げた景の、どこまでも澄んだ真っ直ぐな瞳。
あんな風に全方位に誠実な男がリーダーなら、今後、無理難題を押し付けてくるクライアントの言いなりになるのは目に見えている。そのツケを払わされるのは、末端のエンジニアだ。
「お人好しの御曹司なんて冗談じゃない。少女漫画では許されても、現実は甘くないの。あの『善意』でプロジェクトを壊される前に、一刻も早くあの男の甘さを再構築しないと」
「うわー、出た。社畜発言。ほんと、仕事に全力だよねぇ怜は」
「当たり前でしょ! 私にはお金が必要なんだから!」
とにかく、このままでは、待っているのは地獄のデスマーチ。そして、その原因となるであろう上司との、終わりのない仕様変更。
それだけは、何としても回避しなければ。
「一年後、無事にプロジェクトを終える為にも、私は絶対に折れないんだから!」
怜は決意を固め、ジョッキのビールを勢いよく飲み干した。