その恋、仕様外につき――鉄壁SEは御曹司の暴走を許さない
そして、午前九時を回った頃。
プロジェクトルームのドアを開けた瞬間、怜はわずかに眉を寄せた。
(……何、この空気。もう殆ど集まってる。フレックスなのに。……皆、随分気合いが入ってるじゃない)
フロアには、早くもコーヒーの香りと、独特の熱気が充満していた。
中心にいるのは、もちろん西園寺景だ。彼はインフラ担当の黒江やデザイナーの白河を囲み、タブレットを片手に熱心に話し込んでいる。
「おはよう、真壁さん! 昨夜はよく眠れたかな?」
景が気づいて、パッと顔を輝かせた。
あいも変わらず整った顔だ。モデルだと言われた方がしっくりくる。
「……おかげさまで。それより課長、仕様を私なりにチェックしてみました。十時からのキックオフの前に、目を通していただきたいのですが」
怜はPCを起動し、赤字だらけの仕様書を突きつけた。
プロとして、この無謀な計画の「バグ」をすべて白日の下に晒してやる――そんな気概で。
だが、景は不快な顔一つせず、寧ろ興味津々といった様子で身を乗り出してくる。
「ありがとう、凄くわかりやすいよ。さすが真壁さんだ。実は僕も、昨夜は一睡もできなくてね。君の指摘をヒントに、全体図を少し……いや、大幅に書き直してみたんだ。見てくれるかな?」
そう言って、景が差し出したのは、一冊の分厚いバインダーだった。
「まさか……手書きですか?」
「勿論データもあるよ。でも、皆の意見を書き込むなら、紙の方がいいかなって」
「……まあ、そういう考えもありますよね」
怜は鼻で笑いながらそれを受け取った。素人の御曹司が一晩で考えた修正案なんて、どうせ理想論の羅列に――。