その恋、仕様外につき――鉄壁SEは御曹司の暴走を許さない
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『泥舟の穴を塞ぎに来ただけ』
怜がそう言い放った瞬間、フロアの空気は一瞬にして凍りついた。
ヘーゼルナッツ色の瞳を大きく見開く西園寺課長――景の姿に、その場にいる誰もが「御曹司の逆鱗に触れた」と息を呑んだ。
だが、彼は――。
『――そうか。僕の「Ark」は、君の目には沈みゆく船に見えるんだね』
怒るどころか、悲しそうに、けれどどこか清々しい微笑みを浮かべて呟いたのだ。
そして。
『失礼した、真壁さん。君というエンジニアの価値を、僕は名簿の文字だけで判断していた。アメリカでは「怜」は男性名の愛称として一般的だから、……なんていうのは、僕の怠慢の言い訳だ。本当に申し訳ない』
あろうことか、彼は全スタッフの前で、深く、真摯に頭を下げたのである。
それは、海外仕込みの、絵画のように美しい一礼だった。
『僕の不勉強のせいで、君にこれほどの「怒り」を抱かせてしまったことが、何よりの損失だ。……君の言う通り、この船はまだ穴だらけ。だからこそ、どうか僕に力を貸してくれないか。性別なんて関係ない。君のロジックが、僕にはどうしても必要なんだ』
『――っ』
真っ直ぐな、熱い視線。
「力を貸せ」という言葉は、本来なら支配的な命令に聞こえるはずだった。けれど、彼の声には、剥き出しの誠実さと、自分への「絶対的な信頼」が混じっていた。