その恋、仕様外につき――鉄壁SEは御曹司の暴走を許さない
++
「……ありえないでしょ。あんな、少女漫画の台詞みたいなこと、本気で、しかもオフィスで言う?」
怜は愚痴りながら、二杯目のビールを注文した。
理奈はくすくすと笑いながら、怜の肩を叩く。
「いいじゃない、最高にハンサムな上司で! しかもハーフで、素直に謝ってくれる社長の息子なんて、この世の絶滅危惧種よ? 怜はラッキーなんだって」
「ラッキーなわけない。……寧ろ逆」
怜はグラスの縁を指でなぞる。
「……何が気に入らないの? 私も今日廊下ですれ違ったけど、男女問わず紳士的だったし。わざとらしい感じもしないし」
「そこ。……そこが、一番問題なの」
怜は吐き出すように言った。
「嫌な奴なら、こっちも『鉄壁』を貫ける。無能なら、論理で叩き潰せる。……でも、あんなに真っ直ぐに非を認められて、あんなに綺麗に謝られたら、……これ以上、攻撃できないじゃない。こっちが退くしかなくなるの。私の『武装』を、あの男は笑顔で奪っていったの」
そう。
真壁怜というエンジニアを構成する「拒絶」という名の防御壁が、景の「誠実さ」という名のハッキングによって、一瞬で無効化されてしまった。
それが、怜にはたまらなく恐ろしく、そして――。