雨は嫌いですか、私は好きです
昨日、二人で入ったビニール傘よりもちょっと大きい傘は、周りから二人の顔を隠す。
それが、ほんの少しだけ救いだった。
「俺言ったしね」
もう何個目かも分からない赤信号で同時に立ち止まり、道路を行き交う車を目で追う。
そんな雨音の傍らで、一晴はただ隣に立つ一人のクラスメイトを見続けた。
段々と雨脚は強まっていき、少し身動きをすればぶつかるほどの距離でも声が聞こえない時がある。
「俺の我が儘に付き合ってって」
そうと分かっているのに、一晴はわざと雨音に聞こえないように小さく言った。
ちょうどいいタイミングで目の前を大型のトラックが通り過ぎる。弾けた水飛沫が足元ギリギリに飛んだ。
「小森さんの隣は落ち着く」
「い、いきなり何を言うんですか」
「あれ、聞こえてた。まあ、いいや。俺はね、そろそろ小森さんには分かってほしいって思ってるんだ」
一体何を。
と、聞く必要はなかった。その答えは、すでに学校を出る前に聞いているから。
「それが、言っていた“我が儘”?」
「まあ、半分くらい」
「半分?」
「もう半分は——……」
雨音は周囲の見慣れない道を見回す。遠回りの住宅街。濡れたアスファルト。静かな雨音。
一晴は少しだけ肩を竦めると、少し考えるように空を見てから続けた。
「小森さんと、もうちょっと一緒にいたかっただけ」
あまりにも自然に言われて、雨音は言葉を失った。
誤魔化す様子も、照れる様子もない。ただ、当たり前みたいに言うから余計に反応に困る。
「この前も、似たようなことを言ってた……」
「ん?」
「“私といると、ありのままでいられる”とか」
雨の音が少しだけ強くなって、雨音の声が掻き消される。
それでも問い掛けはしっかりと届いていて、その証拠に一晴は少しだけ目を細めた。
「言ったね」
「……意味が分かりません」
遠回りをしたことで、雨音と一晴は閑散とした住宅街の真ん中にいる。
人通りなんて無い。夕方とも夜とも言えない時間帯にこんな場所にいるのは、二人くらいのものだった。
雨音は歩みを止め、つられて一晴も立ち止まる。変わらず、傘は雨音の方に傾けられたまま。
「私、別に———……成瀬さんに何かしたわけじゃない」
「うん」
「むしろ、邪魔だと思うんです、けど……」
隣りにいなければ、わざわざ傘を傾けて自分が濡れる必要がない。
もっと早く駅に行けて、とっくに家に帰れている。
未だ、雨音は一晴の気持ちを理解する気に慣れなかった。分かり合えるはずがないと、無意識に壁を作っているのだ。
ぽつりぽつりとぎこちなく紡がれた言葉を聞いていた一晴は、少し黙ったかと思うと真っ直ぐと雨音の目を見た。
「小森さんが、邪魔だって? そんなわけないじゃん」
それが、ほんの少しだけ救いだった。
「俺言ったしね」
もう何個目かも分からない赤信号で同時に立ち止まり、道路を行き交う車を目で追う。
そんな雨音の傍らで、一晴はただ隣に立つ一人のクラスメイトを見続けた。
段々と雨脚は強まっていき、少し身動きをすればぶつかるほどの距離でも声が聞こえない時がある。
「俺の我が儘に付き合ってって」
そうと分かっているのに、一晴はわざと雨音に聞こえないように小さく言った。
ちょうどいいタイミングで目の前を大型のトラックが通り過ぎる。弾けた水飛沫が足元ギリギリに飛んだ。
「小森さんの隣は落ち着く」
「い、いきなり何を言うんですか」
「あれ、聞こえてた。まあ、いいや。俺はね、そろそろ小森さんには分かってほしいって思ってるんだ」
一体何を。
と、聞く必要はなかった。その答えは、すでに学校を出る前に聞いているから。
「それが、言っていた“我が儘”?」
「まあ、半分くらい」
「半分?」
「もう半分は——……」
雨音は周囲の見慣れない道を見回す。遠回りの住宅街。濡れたアスファルト。静かな雨音。
一晴は少しだけ肩を竦めると、少し考えるように空を見てから続けた。
「小森さんと、もうちょっと一緒にいたかっただけ」
あまりにも自然に言われて、雨音は言葉を失った。
誤魔化す様子も、照れる様子もない。ただ、当たり前みたいに言うから余計に反応に困る。
「この前も、似たようなことを言ってた……」
「ん?」
「“私といると、ありのままでいられる”とか」
雨の音が少しだけ強くなって、雨音の声が掻き消される。
それでも問い掛けはしっかりと届いていて、その証拠に一晴は少しだけ目を細めた。
「言ったね」
「……意味が分かりません」
遠回りをしたことで、雨音と一晴は閑散とした住宅街の真ん中にいる。
人通りなんて無い。夕方とも夜とも言えない時間帯にこんな場所にいるのは、二人くらいのものだった。
雨音は歩みを止め、つられて一晴も立ち止まる。変わらず、傘は雨音の方に傾けられたまま。
「私、別に———……成瀬さんに何かしたわけじゃない」
「うん」
「むしろ、邪魔だと思うんです、けど……」
隣りにいなければ、わざわざ傘を傾けて自分が濡れる必要がない。
もっと早く駅に行けて、とっくに家に帰れている。
未だ、雨音は一晴の気持ちを理解する気に慣れなかった。分かり合えるはずがないと、無意識に壁を作っているのだ。
ぽつりぽつりとぎこちなく紡がれた言葉を聞いていた一晴は、少し黙ったかと思うと真っ直ぐと雨音の目を見た。
「小森さんが、邪魔だって? そんなわけないじゃん」