隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません
(ルシアはどうするつもりなのかしら。ポボスに収監されると聞いたら、それこそその場で発狂してしまうかもしれない。いっそ、今すぐ殺せと言い出しそうだわ)

 あんなことをしなければ、辺境の地で父親と一緒にひっそりと暮らせる未来があった。それなのに、ルシアは本当に取り返しのつかない、どうしようもないことをしてしまったのだ。

「罪人アレクをたぶらかしただけだったならここまで厳しい処分にはならなかっただろう。ただ、隣国オエルドへレインダムに挙兵するよう仕向けるよう裏で手引きをした。それが、レインダムにとって平和を脅かす危険な人間だと認識される要因になった。何より、更生する気配が全くない。生きている限り、何度でも自分の思い通りにさせたいと悪事を働く可能性がある、そうみなされた」

 ダリオスの話を聞きながら、ルシアに訪れるであろう恐ろしい未来を考えて、セイラの心臓はバクバクと高鳴り、息が苦しくなる。セイラは両目をギュッと瞑りながら、ふーっと大きく深呼吸した。

「セイラ、大丈夫か?すまない、目覚めてすぐにこんな話をするなんて」

 ダリオスがそっとセイラの背中を優しくさすると、セイラは目を瞑りながら首を大きく振った。

「いえ、いいんです。いずれ聞かなければいけないことですし、何よりも双子の妹のことですから。私は、その事実を受け止める義務があります」

 そう言って、セイラは真剣な眼差しをダリオスに向けた。その瞳を受けて、ダリオスは小さく息をのむ。セイラはいつどんな時でも、目の前のことから目をそらさない。逃げ出したくなるようなことでも、逃げずに向き合い、受け止めるのだ。ダリオスはたまらずセイラをそっと抱きしめた。

「罪人ルシアが、どうして双子なのだ、どうして自分だけではないのだとセイラに言っていただろう。俺は、むしろなぜセイラだけではなかったのだと思ってしまう。セイラのような、国と民を思いどんな時でも目をそらさずに聖女として力を尽くす人間こそ、聖女にふさわしい。なぜ罪人ルシアのような人間が、セイラと一緒に生まれ落ち、ポリウスで表の聖女として生きてきたのか理解できない」

 ぎゅっと抱きしめる力が強くなる。セイラはダリオスの背中にそっと手を回して一度抱きしめ返してから、そっと体を離した。

「……私のことを買いかぶりすぎです。私は、ポリウスにいた頃はずっとルシアの陰に隠れて生きてきたんです。確かに、聖女としての力を奮っていたのは私でしたが、ルシアは表舞台で必要なことを全て引き受けてくれていました。あの頃の私には、絶対にできなかった。それに、私はルシアと向き合うこともできず、ただひっそりと自分の置かれた立場を利用して生きていただけなんですから」
「そんなことないだろう。ルシアが安全な場所でのうのうと過ごしている間、君はどんなに危険な場所だとしても聖女として一人で出向いて力を奮ってきたんだ。自分を卑下することなんてない。そんなこと、俺が許さない」

 ダリオスが厳しい眼差しでセイラにそう告げると、セイラは眉を下げて微笑んだ。

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