隣国へ売られた裏聖女は黒騎士様の病を治して国も繁栄させてしまったので、帰ってこいと言われてももう帰してもらえません
「お父様!何をなさるのですか!」

 セイラは悲鳴に近い声を上げるが、ダリオスとクレアは表情を変えずただ兵士たちを見つめるだけだ。

「セイラよ、お前を簡単にレインダムへまた返そうなどと我々が思うわけがなかろう。セイラを安全な場所へ」

 王がそう言うと、一人の兵士がセイラへ近づきセイラの腕を強引に掴んだ。

(そんな!お父様、こんなことをするなんて!)

「やめてください!」

 セイラが悲痛な声を上げた瞬間、いつの間にかダリオスがセイラの腕を掴んでいる兵士の腕を掴み、捻り上げた。

(ダリオス様!)

「俺の大切な妻に触れるな」
「ひっ、ぎゃあああ」

 ダリオスの地を這うような響く声と恐ろしいほどの形相に、腕を捻られた兵士は恐怖で叫び声をあげる。兵士が痛みでセイラの腕を離した瞬間、ダリオスは兵士を壁へ向かって放り投げた。すると、兵士はいとも簡単に吹っ飛び、大きな音と共に壁にぶつかってめり込む。それを見た他の兵士たちは驚いて数歩後ずさった。王もルシアも、目の前の光景に唖然としている。

「こんなことになるだろうと予想はしていたが、まさか本当にこんなくだらないことを平気でするとは。セイラには申し訳ないが、この国の王は頭が弱いらしい。この程度の兵士たちに、俺とクレアがやられるとでも?」

 ダリオスがそう言うと、クレアが微笑む。だが、その目は全く笑っておらず、冷酷ささえかい間見える。

「セイラ様の前ですし、何よりダリオス様はお優しいので手加減しておいでです。手加減してこの状態です。わかりますか?……それから、私はダリオス様と違って優しくありません。手加減するという考えがそもそもありませんので」

 クレアがそう言うと、クレアの周囲に膨大な魔力が浮かび上がる。あまりの魔力量に、恐れ慄いて足がガクガクと震える兵士、腰から崩れ落ちる兵士もいる。

(す、すごい……!クレア様は元々は王家専属魔術師と聞いていたけれど、こんなにもすごい魔術師だったのね……!)

 ダリオスの腕の症状を一時的にでも抑える腕輪を作れるほどの魔術師だ、当然といえば当然なのかもしれない。セイラは目を大きく見開いてクレアを見つめていた。

「ポリウスの王よ、あなたはどうやら勘違いをしているらしい。あなたは自分たちが優勢だと思っているようだが、俺やクレアが本気を出せばあなたの首など簡単に飛ばせる。それをしないのは、レインダムの人間として誇りを持っているからだ。それに、セイラを悲しませたくない。ただそれだけだ」

 そう言ってから、ダリオスはセイラの肩をそっと優しく抱きしめた。

「こんなことが起こらなければ、セイラと共に明日の朝まで王城に留まるつもりだったが、ここにもう用はない。セイラ、行こう」

 ダリオスがそう言うと、セイラは唖然としながらも小さく頷いてダリオスに続く。

「ご心配なく、セイラ様はポリウス国内を浄化していきますので。ただ、先ほどの件については、レインダムへ帰り次第レインダムの王へ報告し、しかるべき措置を取らせていただきます。どうぞ覚悟しておいてください」

 クレアは王へ視線を向けにっこりと微笑むと、ダリオスたちの後へ続いて謁見の間から出ていった。

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