1度ならず2度までも君に恋をする
「あ、の…」


 何か言葉を探そうとした瞬間だった。不意に真紘くんが私の手を取り、そのまま逃がさないように指を絡めてくる。

 至近距離で覗き込まれた彼の顔に、私は思わず息を呑んだ。彼の方から、何の前触れもなく、手を繋いでくる事なんて無かった様な気がする。


「な、んですか」

「何で今日は敬語なの?」

「へ?」


 無表情なまま唐突に放たれた問いに、間抜けな声が漏れた。
 自分が敬語を使っているかどうかなんて、意識する余裕もなかった。

 いつも通り無表情だけど、その奥にほんの少しだけ拗ねた子供のような色が滲んでいる気がした。そんな表情、今までに一度も見たことがない。


「…寂しいじゃん。久しぶりに会えたのに」

「で、も、さっきは…」

「今は誰もいないでしょ」


 ずるいな思う。いつも私を不安のどん底に突き落として、モヤモヤとした霧の中に置き去りにするくせに。

 喉元まで出かかっていた嫉妬も不満も、この甘く低い声ひとつで、いとも簡単に溶かされてしまう。


「…今日はどうする?金曜日だけど」


 どこか他人事のような、私の出方を伺うような言い方。
 その煮え切らなさに、胸の奥がなんだかうずうずした。


「…たまにはおいでくらい言ってみたらどうなんですか」


 少しだけ尖らせた声で、精一杯の反抗心をぶつけてみる。
 すると、真紘くんは意表を突かれたように一瞬だけ目を見開いた。

 だけど、その直後、固まっていた彼の表情がふと緩み、柔らかな笑みが零れた。


「来て」


 繋いだ手に、ぎゅっと力が込められる。
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