1度ならず2度までも君に恋をする
「じゃあ、ここでいいかな。久しぶりに会えてよかった」

「…うん。お世話になりました」

「やめてよ。そんな他人行儀に。またね、真紘」


 そう言って颯爽と立ち去っていく香月さんの背中を、私はただ見送ることしかできなかった。

 "真紘"と親しげに名前で呼び、自然にその隣に並ぶことを許されている彼女。そんな当たり前のことができない今の自分が情けなくて、妬みと羨望が混ざり合った感情が、ぎゅっと胸を締め付ける。

 隣に立つ彼を見上げても、その表情から何を考えているのかを読み取ることはできない。私はただ、彼の横顔をじっと見つめているしかなかった。

 
「…水曜日、現場大変だったんですよね?」

「そう。今日は、そのお礼」

「え?」

「単にお礼に会っただけ。深い意味はない」


 言い訳のように添えられたその言葉に、私はさらなるモヤモヤを抱え込む。

 そんな風に突き放すように言われて、私にどう返してほしいのだろうか。わかりましたと納得して、何も聞かなければいいのだろうか。

 繋がっていると思っていたのは私だけで、彼にとっては、私も彼女と同じ仕事上の付き合いの一人に過ぎないのではないか、そんな疑念が胸を痛めつけていた。


「…まだ、会社にはあまり来れないんですか?」

「そうだね、映像のチェックも続けないといけないし。来週いっぱいくらいは」


 そう言いながら、彼は自然と私の隣を歩き出した。

 どうして私は、こんなにも彼に聞けないことが多いのだろう。
 どこまで踏み込んでいいのか、その境界線が分からない。

 彼にとって特別な存在でもない私が、一歩踏み込んだせいで彼に離れられるのが怖い。けれど、このまま何も知らないままでいるのも、同じくらい怖い。

 そんな矛盾した恐怖に足を取られ、現状をどう打破すればいいのか、私には全く分からなかった。
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