1度ならず2度までも君に恋をする
「…仁菜」

「元カノ、か」


 聞くんじゃなかった。聞くべきではなかったと、激しく後悔した。私は、仕事でもなければ二度と関わりたくないと思われていた過去で、香月さんは、別れた後も信頼を寄せ、頼りにされる存在。

 その扱いの差が、引き裂かれそうなほどに心を抉る。


「美人だし、素敵ですしね」

「違う。彼女に惹かれて付き合ってたわけじゃない」

「…どういう意味、ですか」

「…今は言いたくない」


 拒絶、秘密、沈黙。そんな風にいつだって、彼は私に何も触れさせてくれない。私は都合のいい時だけ抱かれる部下でしかない。

 ぷつり、と 張り詰めていた何かが切れる音がした。我慢の限界が訪れ、私は彼から逃れるように大きく一歩、後退した。


「もう、割り切ります」

「え?」

「もう、過去の事も何も知りたくありません。ただの部下と上司に戻ります」


 昨日までの私が必死に繋ぎ止めていた、細い糸を自ら断ち切る。
 それは期待することをやめた、私なりの防衛本能だった。


「ちょっと待って、俺は…」


 伸ばされた手が、再び私の腕を掴もうとするけれど、私はそれを思い切り振り払った。私は視線を合わせないよう、すぐさま背を向けた。

 どうせこのままじゃ、またもっともらしい言葉で言いくるめられ、流されて、不確かな関係に戻るだけだ。そんな日々には、もういらない。
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