1度ならず2度までも君に恋をする
𓂃꙳⋆⭐︎


 結局、抗いきれないまま流されるように彼の部屋へ辿り着いた。

 ソファに座るよう促され、「何か飲む?」と問いかけられたけれど、私は静かに首を横に振った。

 話を聞いたら、今度こそすぐに帰る。もう二度と、彼の甘い独占欲に絆されたりはしない。そう自分に言い聞かせ、心の境界線を強く引き直す。

 真紘くんは私の隣へ腰を下ろした。
 そして、私の手を取り、真っ直ぐにこちらを見つめてきた。


「…まず、大学時代。あんなに酷い別れ方をして、本当にごめん」

「……」


 五年越しに届けられた、あまりにも遅すぎる謝罪。ずっと求めていたはずの言葉なのに、いざそれを投げかけられると何も言い返せない。


「今から、きっと馬鹿な事を言う。子供だった俺が暴走して、勝手な事をして、君を傷付けた」

「…どういう意味」

「前も言ったけど、その当時君がよく佐久間さんに懐いて頼ってるのを見て、お似合いだって思ってたんだよ」

「お似合いって…」

「佐久間さんなら優しいし、きっと君を大事にしてくれる。上手く伝えられない俺とは全然違う。こんな俺より佐久間さんのが君には合うと思ってた」


 脳裏に、五年前の記憶が鮮明に蘇る。私達が少しずつ、けれど確実にすれ違い始めたのは、彼が大学を卒業する三ヶ月ほど前のことだった。

 社会人になる準備で忙しい彼に、これ以上甘えてはいけない。そう思って物分かりのいい恋人でいようと思っていた私は、OBとして顔を出していた佐久間さんに、就職の悩みなどを相談することが増えていた。

 けれど、それは真紘くんを信じていなかったからじゃない。彼を想うがゆえの遠慮だった。そんな私の小さな配慮が、彼の中では心変わりに見えていたと思ったら、寂しくて苦しかった。

 あまりにも幼く、彼なりの不器用ゆえの優しさ。それを今さら聞かされた私は、驚きと、それ以上にやりきれない怒りで震えていた。
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