1度ならず2度までも君に恋をする
「…再会してすぐの時、忘れてって言ったのは何で?」


 そう問い掛けるとほんの少し目を見開いた。

 あの日、佐久間さんと三人で飲みに行き、彼の家で夜を共にした翌朝。彼は忘れて、と言い放った。上司としても、一人の男としても、君に手を出すのは間違えてた、と。上司としての理屈は理解できても、一人の男性としてもなかったことにしようとした彼のことが、どうしても理解できずずっと胸に刺さっていた。


「…俺があの日突き放したのに、ちゃんとせずに理性飛ばして、手を出したのが情けなかったから」


 絞り出された答えに、私は思わず唖然とした。拒絶されたのだと思っていたのに、実際は彼の自己嫌悪から来る発言だったなんて思いもしなかったから。


「言葉が足りなさすぎる!」

「ごめん」


 そんな風に真っ直ぐ謝られてしまったら、もう、それ以上責める言葉が見つからない。こういうところが、彼は本当にずるい。


「もう謝んないで、怒れなくなる」

「何で、怒っていいよ」

「何も分かってない!バカ!」


私が堪まりかねて声を荒らげると、真紘くんは困ったように、けれどどこか愛おしそうに、ふ、と柔らかな笑みを零した。


「…許して、とは言えない。だけど、傷付けた責任は俺なりに取りたい。今は、まだその責任の取り方も思いつかないけど…。本当は今の案件が終わって落ち着いてから考えて、君が納得してくれるような答えを見つけるつもりだった」

「…そんなの一つしかない」

「一つ?」

「これからは、離れないで傍にいて。五年間も拗れさせたんだから」


 私がそう告げると、彼は一瞬だけ呆気に取られたように目を見開いた。それから、困ったような、それでいて心の底から安堵したような、泣き出しそうなほど優しい笑みを浮かべた。


「…本当、そんな俺にとって都合良い事あっていいのかな」


 そう呟く彼に、私はそっと自分から腕を回して抱きつき「寂しかった」と一番伝えたかった本音を零す。そんな私を、彼は力強く抱きしめ返してくれた。

 ずっと、この温もりが当たり前になることを。五年間、ただこれだけを求めて、願ってきた。


─────もう、二度と離したくない、離れたくない。
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