1度ならず2度までも君に恋をする
 月曜日になれば、当然のように私達はただの上司と部下に戻った。公私混同はしたくないという彼の意向もあり、付き合っていることは伏せられ、職場での距離感は以前と変わらないように。

 とはいえ、その彼は今は社外に居る事が多く、顔を合わせることはあまりない。あったとしても帰り際の一分程度だ。

 それと、真紘くんの許可を得て佐久間さんにだけは話すことにした。私達の関係を気にして、時には背中を押してくれた恩人であり、隠しておくことで佐久間さんに対して後ろめたい気持ちでいたくなかった。


「そっか。…丸く収まったんだな」


 昼休みの屋上、佐久間さんは柵に背を預け、手元の缶コーヒーを見つめたままそう呟いた。

 報告する瞬間は、胸が苦しかった。佐久間さんの想いに気付いていたからこそ、この幸せな報告が、彼を深く傷つけてしまうような気がして、デリカシーのない、酷い行為なのではないかと考えた。

 だけど、隠し通すことの方が、佐久間さんに対してはよっぽど、酷い行為にも思えて、私なりの誠実さでぶつかる事にした。


「いろいろと、ご心配をおかけいたしました」


 これまでの感謝と、申し訳なさと、そして彼の優しさに甘えてきたことへのけじめ。それらすべてを込めて深く頭を下げると、頭上で佐久間さんがクスッと小さく声を漏らした。

 私が顔を上げると、佐久間さんは穏やかな表情で首を横に振った。


「いいんだよ。可愛い後輩の二人が幸せになってくれて嬉しいよ」


 その声には、私の幸せを心から祝福する響きと、自分の中の想いに区切りをつけるような、そんな風に見えた。

 佐久間さんは残っていたコーヒーを飲み干すと、空の缶を軽く潰し、柵から腕を離し、私の頭を軽くぽんぽんと撫でた。


「幸せにしてもらいなね」


 そう言って横を通り過ぎていく佐久間さん。
 その声が温かくも、私には切なく聞こえた。
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